「愛する人が亡くなっても、手を止めてはいられない」99歳の新藤兼人監督が日本人に残した『一枚のハガキ』
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大竹しのぶの真骨頂にボロ泣き
そしてなんといっても、このハガキの差出人、友子を演じる大竹しのぶさんがもう、圧巻!!! 涙ボロボロこぼしながらかじり付いて魅入っていました。
夫の戦死を受け、それでも涙を見せず淡々と家事をする友子ですが、庭で薪を勢いよく割り、大根をこれでもかと乱暴に包丁で切る様子が映し出され、入り混じった怒りと哀しみが今にも爆発しそうに湧き上がっているのです。
大竹さんが初めて台詞を発するのが、「お父さん。わしはここに嫁に来たんじゃけぇ。どこにも行きゃしません」という、一緒に住む定造の父母に向けた言葉なのですが、この時もすごく落ち着いた様子で、大竹さんが発する言葉の音がすごく心地良くて優しくて。でもそれが、かえってとっても切なく感じるのです。
愛する人が亡くなっても、自分たちが生きるために、手を止めてはいられない、泣いている場合じゃない、常に生と死が隣り合わせにあるその環境を思うと、とても胸が痛みます。目の前にある命を守ること、生きることがとにかく最優先であったのだと。大竹さんの表情から、これが、戦争のリアルなんだと感じられるのです。
台所に戻った友子が、「あんたぁ、わしをおいてなんで死んだーーー!」と叫び、一粒の涙を流すシーンは、この抑えていた感情が爆発してとても印象的。このシーンを含め、撮影方法であったり、役者さんの動きであったり、大胆な演出等から、まるで舞台を観ているかのような感覚になるのも、この作品の特徴です。
例えば、松山が友子を訪ね、囲炉裏で定造の話をするシーン。松山の話を聞きながら、ずるずる身を後ろに引いていく友子の動作であったり、その友子と共にカメラを移動し、その後感情的に激怒した友子が松山に詰め寄るシーンで友子と共にカメラが動いたり。いずれも役者の感情を効果的に見せるような演出。特に松山と友子が感情的なシーンは4分以上のワンカットが多数あり、視聴者の集中力を途切れさせないんですよね。生でお芝居を観ているかのような臨場感は、息をするのも忘れてしまうほど。夫・定造との思い出話を、友子がカメラに向かって話すようなカメラワークもあったりして、ドキリとさせられます。
豊川悦司さん、大竹しのぶさんも素晴らしいですが、他にも豪華俳優陣がずらりといらっしゃるのも見どころ!
定造役の六平直政さんは、一途な友子への愛を感じられ、包容力ある佇まいが素晴らしいし、父母役の柄本明さんと倍賞美津子さんペアは抜群の安定感があります。松山をライバル視する男に大杉漣さんもいらっしゃって、真面目さをコミカルな笑いに変えて演じていらっしゃいます。松山の叔父役、津川雅彦さんの覇気のある海の男感もたまらないし、ほかにも木下ほうかさん、麿赤兒さんもチラリと登場したり。皆さん本当に個性的で、役を生きてらっしゃるんです。
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