8歳から内職、経験した職種は100種類… 作家「爪切男」誕生までを本人が語る! 風俗、ハナクソ、宙を舞う炒飯!?
風俗とは「信頼の現場」である
――本書にもありますが、風俗の話を聞かせてください。上京して風俗にハマったのはなぜですか?
爪 風俗に行っているときは俗世を忘れることができるからいいですよね。僕はプロレスが好きで、風俗のプレイもプロレスと同じく「信頼の現場」だと考えています。「なぜロープに振られたレスラーは戻って来るのか」なんて聞くだけ野暮です。それと同じで、たとえば風俗嬢の年齢は問いただしません。相手が23歳と言うなら、23歳と信頼して楽しむんです。本当のことなんてどうでもいい。どっちが上も下もない。客と風俗嬢が対等な立場で楽しむ一期一会のエンターテイメントですね。
――風俗ではどんなプレイが好きなのですか?
爪 Hなサービスもいいけど、僕はそれ以外のプレイも女の子と楽しみます。
例えば、「かくれんぼがしたい」や「おにぎりを握ってほしい」とか「お互いに絶対に声を出さない筆談プレイがしたい」とか。もちろん、いきなりではなく、事前にお店に許可をもらっていますけどね。
今度、週刊SPA!でやっている連載(『きょうも延長ナリ』)でも書いたんですが、おにぎりプレイをするために、事前に家で炊いたごはんをタッパーに入れて、食器類も持っていきました。そのときは、受付の店員に「本当に来ちゃったんだね」と笑われましたが。
――風俗に何を求めているんですか!?
爪 辛い仕事現場もそうだし、風俗もそうだし、とにかく楽しい時間を過ごしたいんです。1人で風俗に行っているのに、(“ステージ”だから)観客であるもう1人の自分に見られている感覚があります。その観客を喜ばせるようなことをしたいと常に思っています。『死にたい夜にかぎって』にも書いたエピソードですが、池袋で「オレのチンポを火だと思って、火を初めて見た人類のつもりでしゃぶってみて」とお願いしたんですよ。すると彼女は「何これ…… 熱い!! でもあたたかい……」という演技をしてくれたんです。彼女は一流のエンターテイナーだったなぁ。風俗の本当の良さは、そういうところにあるんじゃないですかね。
爪切男の本が売れたら戦争が起きる!?
――うーん、深い話なのだろうか……。いずれにしてもさまざまな労働を経て、爪さんは作家になる夢を叶えました。
爪 夢は叶ったけど作家になった実感はないですね。楽しいことは本当に多いけど、稼ぎとしてはどうなんだろう。少なくとも何かと兼業ですることは勧めますね。
――作家になれば、儲かると思っていましたか?
爪 昔は本が何百万部売れていたんでしょうけど今の現実は甘くない。こんな時期ですし、どの業種も儲かってはいないと思うので、自分ができることをやっていくのみです。もし僕の本がベストセラーになることがあれば、それは大災難の前触れですよ。戦争が近いのかもしれません。それくらいの異常事態です。
――これからの話もお聞きしたいのですが、作家は続けていきますか?
爪 楽しいから辞められないと思います。苦しいときもありますが、今のところ楽しいことが上回っていますから。それに僕の人生は本当に人に恵まれています。日雇いバイトで出会った面白い人たち、いろいろ問題があるけど可愛い彼女と同棲できたこと、ラッパーだらけのWEB制作会社で働いていたこと、どれか一つでも欠けてたら夢を諦めていたかもしれない。自分だけの力では絶対に作家になれなかったですね。
――今や有名作家ですから、女性にモテるのでは?
爪 全然有名じゃないし、いっこうにモテません。別にモテるために作家になったわけではないので、気にしませんが……。最近はペットを飼いたいですね。部屋に自分以外の生命を感じたいんです。
――今後の目標はありますか?
爪 少し前までは、「本を3冊出した後は大好きな蕎麦屋でバイトする」と宣言してましたね。実際のところ作家は続けますが、そんな風にイチから何かを始めたい気持ちはくすぶっています。それこそ上京してきた当初の初々しい気持ちでバイトをしてみたい。作家としての現時点の目標としては、創作小説を1つは書いてみたいと思います。
今回紹介した『働きアリに花束を』(扶桑社)のほか、『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)、『クラスメイトの女子、全員好きでした』(集英社)と3カ月連続でエッセイをリリースする爪切男氏。文章のイメージから神経質な人を想像して多少尻込みしていたのだが、実際に話してみると痛快でサービス精神旺盛な人だった。きっと近いうちに小説を書き上げてくれるはずだ。まだまだ彼には、働きアリとして、読者を楽しませる義務がある。こんなに爆笑させて、しかも心にしみる文章とはなかなか出会えないのだから。
(文・写真・取材=松本祐貴)
(プロフィール)
爪 切男(つめ きりお)
1979 年、香川県生まれ。作家。自身の恋愛体験を綴った私小説『死にたい夜にかぎって』で作家デビュー。同作は賀来賢人主演で連続テレビドラマ化もされ話題となった。そのほか著書に『もはや僕は人間じゃない』(中央公論新社)がある。現在、週刊 SPA!で風俗エッセイ『きょうも延長ナリ』を連載中。
・爪 切男公式twitter @tsumekiriman
松本祐貴(まつもと・ゆうき)
1977年、大阪府生まれ。フリー編集者&ライター。雑誌記者、出版社勤務を経て、雑誌、ムックなどに寄稿する。テーマは旅、サブカル、趣味系が多い。著書『泥酔夫婦世界一周』(オークラ出版)『DIY葬儀ハンドブック』(駒草出版)。新刊に編集として関わった『これからの時代を生き抜くための生物学入門』(辰巳出版)五箇公一著。
・ ブログ「~世界一周~ 旅の柄」 http://tabinogara.blogspot.jp
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