キムタクはロールモデルにできないほどの高みへのぼった──ジャニーズ男性アイドル像の変遷(後編)
#テレビ #ジャニーズ #嵐 #SMAP #木村拓哉 #SNS #ジャニー喜多川 #K-POP #新しい地図 #キムタク
ファンが嵐の活動休止を受け入れた理由とは?
──確かに、ジャニーズは高齢化も気になるところです。
矢野 女性アイドル、例えばAKB48は卒業とセットになっていて、若いことが商品価値になっています。それは不健全だと僕は思っていたのですが、人によってはずっとアイドルを続けて結婚もできないのは不自由で逆にかわいそうだと言う。いろいろな見方がありますが、僕としては本人に「続けたい」という意志があるなら、何歳になってもアイドルとしてカッコよさを更新していけることはいいことだと思います。
西原 アイドルは恋愛してはいけない、子どもの状態でないといけないという不文律が再生産されることについては、私も疑問です。キムタクは20代で結婚して子どももいて、しかもその子たちが成長してメディアに出ていても、自分のアイドル業と両立している。こうした健全な形でアイドルができるようになっていけばいいのですが。実際に、ファンも若さだけではなくパフォーマンスや生き方など、いろんな要素から魅力を感じている。仕事としてのアイドル業と彼ら自身の生活がうまく両立できるようになっていってほしいと思います。
田幸 ただ、2020年に続々と退社が出まくって、嵐も活動休止してしまった。ファンとしては「いつまでも続けてほしい」と思おうと、本人たちには難しい問題があるのだと考えさせられたのも事実です。
矢野 Jr.がデビューできないという問題もありますね。第一線で活躍し続けることが別の抑圧を生んでいるかもしれない。キラキラで若くて、まだ完成されないところが魅力とされてきたジャニーズは、ジャニーさんがプロデュースしてきたここ50年ほどの男性アイドルのあり方であって、時代と共に変わっていくのだと思います。
──では、今後はどのように変わっていくのでしょうか?
西原 嵐の活動休止について、「本人たちが休みたいなら、休んだほうが自分たちも幸せ」とファンが受け入れている点が印象的でした。無理をせず休養したり、自分の思うことを自分の言葉で発信したり。これからは、「いつも元気でキラキラしている」という非現実的な生き方をするアイドルではなく、ひとりの人間として生きていく。それをファンも了解して応援していく形に変わっていくと思います。
田幸 なんだかんだでジャニオタというパイは大きい。その支えがありながらも、19年にジャニーさんが亡くなったことで、ほかの事務所と変わらない普通の芸能人になっていくだろうなと。
矢野 そうですね。16年のSMAP解散がジャニーズの歴史における最後のひずみ。その頃、嵐は活動休止をめぐって話し合いをしていたということが象徴的だと思います。ジャニーさんが亡くなり、かつてのジャニーズと同じようなものは求められない。特別なものではなく、一般企業となっていくでしょう。それに対して滝沢秀明副社長がどう思っているのかが気になるところ。それをハラハラしながら見守っていきたいと思います。
(構成/安楽由紀子)
田幸和歌子(たこう・わかこ)
ライター。1973年、長野県生まれ。週刊誌、月刊誌、ウェブで俳優、脚本家、プロデューサーへのインタビュー記事やドラマコラムを執筆。著書に『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)、『KinKi Kidsおわりなき道』(アールズ出版)などがある。
矢野利裕(やの・としひろ)
批評家、DJ。1983年、東京都生まれ。2014年、「自分ならざる者を精一杯に生きる――町田康論」で第57回群像新人文学賞評論部門優秀作受賞。著書に『SMAPは終わらない』(垣内出版)、『コミックソングがJ-POPを作った 軽薄の音楽史』(Pヴァイン)などがある。
西原麻里(にしはら・まり)
愛知学泉大学家政学部講師。博士(メディア学)。編著に『ポスト〈カワイイ〉の文化社会学 女子たちの「新たな楽しみ」を探る』(ミネルヴァ書房、吉光正絵・池田太臣と共編)、共著に『BLの教科書』(有斐閣、堀あきこ・守如子編著)がある。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事