男は家事・育児をしない3世代同居──家父長の波平が女を抑圧するアニメ『サザエさん』は有害か?
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カツオを支えるワカメはかつて腹黒い悪ガキだった
また、サザエの夫であるマスオは、アニメでは原作よりも気弱な男性として描かれているのだが、そこにも70年代のメンズリブ的な意識が反映されているという説明もできそうだ。
「マスオは婿養子だと誤解されがちですけれども、姓はフグ田ですから、単に妻方の実家に同居しているだけなんですよね。では、なぜ婿養子のように見えるのかというと、やはりあの柔和なキャラクターのせいだと思うんです。彼はとても優しそうで、家事はしないけれども、現代でいう“イクメン”的なキャラクタライゼーションの走りではないか。それは、70年代は高度経済成長に寄与してきた会社人間としてのサラリーマンたちが、なんらかの反省を強いられるモーメントであったことが影響しているでしょう」(同)
以上のように、もともと『サザエさん』は先鋭的なアニメとしてスタートし、少なくとも現在批判されているような、昭和的なジェンダーの規範を補強するようなものではなかった。しかし、スラップスティック路線は視聴者の受けが悪かったらしく、71年以降は暴力的な表現は抑えられ、放送200回を迎える73年には現在のような穏当なホームドラマ路線がほぼ確立されている。その間に、性格が明確に変わったキャラクターがいる。ワカメである。
「現在のワカメは、一言でいえば聞き分けのいい優等生ですよね。仮にカツオが昭和的な家父長の予備軍だとしたら、もちろん兄妹なので結婚はできませんが、そんなカツオを支える専業主婦として飼い慣らされてしまった女性のようにも見えます。しかし、初期のワカメは不真面目で腹黒く、大人に対しても平気でヒドいことを言うようなキャラクターでした。例えば、第3回放送の『運動会だヨォーイ!!ドン』というエピソードでは、運動会で弁当を食べすぎて動けなくなるという、現在であれば間違いなくカツオが担うべき役割を演じていたりします。悪ガキだったはずのワカメが抑圧されたのが、実は『サザエさん』をジェンダーという観点から見たときの最大の変化かもしれません」(同)
もっとも、ごく初期にあったラディカルさや腹黒いワカメを擁する『サザエさん』が50年以上続く人気アニメになり得たかといえば疑問であり、その意味ではホームドラマ路線への転換は成功だったのだろう。
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