「スニーカーはレディースサイズになるとダサくなる」は正しいのか? フットウェアデザイナーが語る「靴のジェンダー」の今
#ファッション #ジェンダー #LGBTQ #YOAK #スニーカー #デザイン #広本敦
2月上旬に、ある女性がツイッターに投稿した発言が話題になった。その趣旨は「メンズレディース表記やめて全部共通サイズ展開してくれよ」「デザインをちょっとダサくアレンジしてレディースサイズに展開される度にものすごく恨んでます」というもの。
この意見は女性たちの共感を呼び、多くのリプライが寄せられていた。確かに、スニーカーはメンズとレディースが明確に分かれていることがほとんど。素人目には同じデザインでサイズ展開したほうが楽に思えるが、なぜそれができないのだろうか? その背景を、大手スポーツメーカーから独立して自身のフットウェアブランド「YOAK/ヨーク」を立ち上げた、シューズデザイナーの広本敦氏に話を聞いた。
3.11以降、スニーカーの需要が増えた
──ツイッターの意見をみて、率直にどう感じましたか?
広本敦氏(以下、広本) 仕事上、LGBTQだったり、サステナビリティ(持続可能性)といった言葉はよく耳にしていたのですが、正直そこまでリアリティを持って感じられていないところもありました。それが、リプライも含めてこうやって多くの声を目にすると、実感をもって入ってくるなと感じました。
──これだけ拡散しているのも、同じ思いを持っている人が多かった証しかと思います。
広本 そういうことですよね。それと同時に、一般のユーザーさんの考えと、メーカーの考えの差の大きさも感じました。なぜスニーカーを共通サイズで展開できないかというと、広く業界的に考えれば、設備投資の問題が大きいと思います。
靴は、原型となる「ラスト」という木型と、「モールド」というソール部分の金型のふたつからできていて、デザインによって幅はありますが、それらをワンサイズごとに作ると、ざっくりそれぞれ数十万から数百万ほどかかってしまいます。ならばレディースとメンズで明確に分けて、どちらかに絞って販売をしたほうが、設備投資のお金をかけずに済むので、そこで縛りを入れているというのが、これまでの常識的なメーカーのやり方だったと思います。
──サイズ展開をすればするほど、メーカーの儲けが減るということですか?
広本 というよりは、設備投資にお金がかかるということですね。幅広く設備投資をして、それで売れれば問題はないんですが、現実的にはそうもいかなかったりする。いままではそのやり方でも、ジェンダーレスという話にはならなかったんだと思いますが、そこが変わってきたところなのかなと思います。
──大手メーカーの場合は、商品ごとに何センチから何センチまで作ろうと市場調査をして細かく設定しているんですか?
広本 そうだと思います。僕もメーカーにいた当時は「この型はメンズからレディースまでやります」とか「これはレディースカラー、メンズカラーでいきます」と企画段階から分けていました。
──広本さんは、2016年に独立され自身の「YOAK」を立ち上げています。大手スポーツメーカーと小回りのきく規模感のブランドでは、スニーカー作りに対する考え方は違ってくるのでしょうか?
広本 大きなメーカーになると、モールドに自社のロゴを入れたいので、イチから作るしかないんです。それに比べると、いまは工場で共有している誰でも使えるオープンモールドがあったり、ソールメーカーの製品を使うことで、みんなと同じというデメリットもあるのですが、設備投資を抑えながら靴を作ることができるようになってきています。最近は割と大きなブランドしかモールドを作っていないかもしれませんね。
──スニーカーにはスポーツシューズというイメージがあるのですが、そもそもの定義はあるのでしょうか?
広本 一般的には、革底かゴム底かというところは大きいと思います。ただ、スニーカーの定義が今すごくわかりにくくなってきていて、業界的には3.11以降、スニーカーの需要が増えたと言われているんですね。あのとき、男性も女性も、どちらかといえばパンプスだと思いますが、革靴の人が本当にしんどかったみたいで。そこからビジネスユースにおいても、スニーカーが注目され、定着していったというところがあるので、単にスポーツシューズというところからは、少し変わってきているのかなと思います。
──近年は「#KuToo」運動なども話題になっていますが、女性のスニーカー需要は高まっているのでしょうか?
広本 高まっていると思います。スニーカーの需要は3.11以降で実際に増えていますし、おっしゃるように「パンプスやめよう」といった考え方との関わり合いもあるのかなと思います。昔は本当にスニーカーを履いている女性ってあまりいらっしゃらなかったと思うのですが、いまはみなさんスポーツもやりますし、ファッションのスタイルも幅広いので、よりジェンダーレスになってきているのかなと思います。
──そういった意味では、メーカーのこれまでのシステムが、その需要に追いついていないようなところもあるのかと思いました。
広本 そうですね。やっぱり、ファッションでも洋服に比べると靴業界は体質が古いと感じるところもあるので、そこはこれからなのかなと思います。
──冒頭のツイートにもありましたが、なぜレディーススニーカーのデザインはダサい(と女性が思ってしまう)のでしょうか?
広本 変なラインが入ったりしますよね(笑)。あとは、色の展開が赤とかピンクになったりとか……うーん、なんでだろう。木型(ラスト)のところでそうなってるのかもしれないですね。多分おじさんとかが、「こんな感じだろう」って、より女性っぽく尖らせたりしてるのかな(笑)。でも、昔からやっている歴史のあるブランドになると、もともと持っているお客さんがいらっしゃると思うので、そこに対してアプローチする必要もあるんだと思います。中には50代、60代の女性のお客さんが多いブランドもあると思うのですが、偏見かもしれないけど、そういうところだと、ピンクが人気だったり、落ち着いたカラーで足幅が広くて甲は高めみたいなデザインになりがちなのかもしれない。ターゲットの付け方みたいなところは大きいのかなと思います。
一方で、若い方に向けたブランドだったら、最近は男の子くらい足のサイズがある女性も多いので、甲も低めで26センチくらいまで作りましょうという話になることも増えているので、選択肢の幅は広がってきていると思いますよ。
──単純に、男女の足の構造の違いによって、デザインに違いが出ることもあるんですか?
広本 ありますね。YOAKでは、22センチから25センチまでをレディースサイズ、25センチから29センチまでをメンズサイズにしているんですけど、25センチのメンズとレディースは、同じデザインではありますが、木型を変えているんです。幅や甲まわりのワイズ(足囲)などは女性のほうが小さいので、そこはどうしようもないというか、木型は変えたほうが絶対的によくて。もともとの骨格が違うように、足の形が違うので、同じままサイズだけブレイクダウンしてしまうと、おかしくなってしまうんです。これに関しては、メンズ、レディースだけでなく、メーカーによっても差が大きいところでもあるので、履いてみないとわからない部分かもしれません。
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