トランプをまだ支持し、コロナワクチン陰謀論を信じる… キリスト教右派「福音派」とアメリカ大統領の危ない関係
#大統領 #陰謀論 #福音派
「ワクチンには中絶した胎児の細胞が入っている!」
「ワクチンには中絶した胎児の細胞が入っている!」
――アメリカ国内の黒人やアジア系と福音派の関係は?
松本 前提として言うと、アメリカの人口全体で黒人は12~13%です。シカゴなど北部の工業都市には黒人が50%近い街もありますが、アメリカ全土で見ればそんなにたくさんはおらず、政治的な影響力は限定的です。特に大統領選を左右する南部に関しては、差別がひどいために黒人の人口が少ない。
福音派でも白人と黒人は基本的には分かれています。南部でいえば、南部バプティスト教会は人種差別が厳しい地域ということもあり、黒人と白人の教会が別々に発展してきた歴史があります。例えば、キング牧師は南部バプティスト教会のリーダーでしたが、60年代には小さな教会でした。ただ、白人の福音派がメガチャーチ設立によって信者を増やしているのを見て、黒人版メガチャーチをつくる努力がなされ、成功例も出てきています。メガチャーチは都市の真ん中ではなく郊外にあり、シカゴ郊外のメガチャーチでは黒人がリーダーのところもあると聞いています。
また、アジア系の福音派には熱狂的なトランプ支持者が少なからず存在します。例えば、私の知人には華僑でマレーシアにルーツを持つフロリダ在住の中国系アメリカ人の女性がいますが、彼女は白人の福音派以上にトランプの反中国外交に大喝采を送っていました。アジア系といっても母国、先祖の出身地がどこかで違いますが、中国やベトナム出身だと「共産主義が嫌いだからアメリカに来た」という家系が多く、しかもクリスチャンの場合はなおのこと共和党支持なのです。「マイノリティは民主党を支持」と教科書には書いてあるけれども、今言ったような文脈では、必ずしもそうではない。
さらに言うと、民主党が推進する黒人へのアファーマティブ・アクション(積極的格差是正措置)――一流大学の入学試験において黒人受験生は学力が低くても点数にゲタを履かせて一定数を入学させている――に対して、勤勉で学力の高いアジア系は「不公平だ」と非常に怒っています。こういうアジア系の民主党嫌い、トランプ支持者には陰謀論に絡め取られている人もいるのが現状です。
――宗教保守と陰謀論には関係があるのでしょうか?
松本 無関係ではないですね。Qアノンの信奉者や、2021年1月に起こった議会乱入事件の実行犯の一部には福音派もいます。
また、福音派メガチャーチに通う人の約40%は新型コロナワクチン懐疑論者であり、その約半分が陰謀論的な反ワクチン派です。「はしかワクチンには妊娠中絶した胎児の細胞が使われている」とか「ワクチンにはマイクロチップが入っていて、打つとそれが身体に埋め込まれる」といったデマを信じている。最近、福音派の2割は陰謀論的なワクチン懐疑主義者だと報じられており、彼らの存在によってアメリカでのコロナ収束に時間がかかるのでは、といわれています。
――アメリカの全人口が3億で、3割にあたる1億人弱が福音派、そのうちワクチン懐疑論者が4000万人、陰謀論的理由による反対派が2000万人ですか……、なかなかな規模ですね。バイデン政権以後の福音派の動きは?
松本 対中強硬政策は福音派も賛同しており、ワシントンの圧力団体などを通じてバイデン政権の運営に影響を与えていくでしょう。
ただ、国内政策は「移民・難民に対して門戸を開く」「気候変動に対してグリーンカラー(環境関連産業)推進政策を実行」「妊娠中絶を認める」といったトランプとは真逆のことをやると謳っているため、猛反発されています。トランプ支持層には白人の福音派ブルーカラーがおり、彼らは石炭・石油産業の労働者階級ですから、グリーンカラーに産業転換が進むと失業してしまう。また、中絶容認に関しては福音派ロビー団体は「あんなヤツはキリスト教徒ではない!」と怒り狂っている。そもそも上院は共和党、下院は民主党が過半数を占め、議会が割れていますから、バイデン政権はある程度は譲歩を強いられることになると思います。
●プロフィール
松本佐保(まつもと・さほ)
1965年、神戸市生まれ。96年、英国ウォーリック大学社会史研究所博士課程修了。Ph.D.取得。その間、イタリア政府給費留学生としてローマのリソルジメント研究所に研究員として滞在。2011年より名古屋市立大学人文社会学部教授。専攻は国際関係史。著書に『バチカンと国際政治 宗教と国際機構の交錯』(千倉書房)、『熱狂する「神の国」アメリカ 大統領とキリスト教』(文春新書)など。
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