トランプをまだ支持し、コロナワクチン陰謀論を信じる… キリスト教右派「福音派」とアメリカ大統領の危ない関係
#大統領 #陰謀論 #福音派
「アメリカを再び偉大な国に」のキリスト教的な意味
「アメリカを再び偉大な国に」のキリスト教的な意味
――1980年にレーガンが大統領選で打ち出した「Let’s Make Ameriaca Great Again」というフレーズは、アメリカ建国時にピューリタン(清教徒。16世紀後半以降、イギリス国教会の改革を主張した長老派、独立組合派、バプテスト派などプロテスタント諸教派の総称)が唱えた千年王国論――アメリカこそ神が地上に建設した理想国家、「神の国」である――の反映という側面がある、と松本先生の著書にありました。これはトランプの「MAGA(Make America Great Again)」も同じですか?
松本 同じです。2016年のトランプの選挙戦略は、レーガンの1980年の戦略をかなり真似ています。「キリスト教徒によってアメリカは建国された。ピルグリム・ファーザーズ(1620年、絶対王政下のイギリスにおける宗教的迫害を逃れ、メイフラワー号で北アメリカに移住した102人のピューリタンたち)がアメリカにたどり着いたときは何もなかった。ところが、たった200年で世界一繁栄する国になった。これは神による奇跡である。私たちは神に祝福されている」という理念がアメリカ人には強くあります。そんなアメリカの衰退が感じられた時期に、レーガンはソ連に対抗して、またトランプは中国が台頭してくることに対して、「Great Again」と叫ぶことで国民の支持を得たわけです。
レーガン、トランプをはじめ、本人はプロテスタント主流派なんだけれども、票が欲しくて福音派に近づく大統領候補が連綿と存在してきました。トランプは母親がスコットランド系で、スピーチするときには長老派の教会でもらったという聖書を掲げています。長老派は必ずしも福音派とはいえませんが、トランプは福音派、メガチャーチが票田だと認識して、ペンス副大統領、ポンペイオ国務長官、ブラウンバック全権宗教自由大使という筋金入りの福音派を主要ポストに就けていました。だから福音派の信者たちは、トランプ本人は敬虔ではないことを知りながらも、自分たちの望む政策を実行してくれる存在として支持してきました。
――アメリカでは、どの大統領候補がどの宗派なのか、どこを票田と見込んでアプローチしているのかというのは常識的な話ですか?
松本 主流派か福音派かまで一般市民が意識しているかは微妙なところですが、カトリックかプロテスタントかの認識ははっきりとあって、ある程度は投票行動にも反映されています。歴代の大統領はほとんどプロテスタントで、カトリックはケネディ(1961~63年)とバイデンしかいません。
ウイグル問題が注目された本当の理由
――バイデン政権ではそういう宗教票を見込んだ人事は?
松本 していないですね。民主党は共和党に比べると、オフィシャルなレベルではキリスト教色が薄いのが通例です。トランプ政権で司法長官だったバーは保守系カトリックですが、彼は「民主党政権になると世俗化が進む。アメリカはキリスト教あってこその国だ。世俗化が進むと私たちはアイデンティティを失う」と語っていました。
では、バイデンがキリスト教をケアしていないかというと、そうではない。例えば、民主党は「人権」という言葉を前面に押し出しながら、キリスト教的な理念を訴えた外交政策を展開しています。福音派だったカーター大統領(77~81年)は「ソ連で人権弾圧がある」と非難して介入しました。また、バイデン政権の国務長官ブリンケンはユダヤ系ですが、ウイグル問題をホロコースト、ユダヤ人大虐殺と対比させて批判しています。中国に対してオフィシャルには厳しく言わない立場だった日本の政治家たちが党派を超えて人権侵害制裁法案の成立に向けて動き出したのは、バイデン政権が強硬な人権外交を打ち出しているからでしょう。
以前から対中東外交政策では、「イスラーム過激派によるキリスト教徒の殺害や教会爆破に対して軍事介入すべきだ」という言説がありました。シリアやレバノンには正教会派のキリスト教徒が一定数いるからです。「キリスト教徒はユダヤ教徒と結託してエルサレムを守るべきだ」とする「キリスト教シオニズム」という考えから、イスラエルに軍事援助すべきだとの意見も根強くあり、トランプ政権はアメリカ大使館をテルアビブからエルサレムに移転するといった政策を実行してきました。また、香港の民主化運動でも共産党政権への反対運動を展開している人たちにはキリスト教徒が多い。
ところが、新疆ウイグル自治区で中国から弾圧されているのはムスリムです。ですから長い間、弾圧があってもアメリカは無視していた。それが2018年頃、急に共和党まで態度を変えた。これは、バグダーディ暗殺によってIS(イスラーム国)が下火になり、イスラーム過激派は大きな脅威ではないという認識になった一方で、中国共産党脅威論が高まってきたことが背景があります。それで、手のひらを返して「ムスリムを守れ」と言うようになった。そして、この点はトランプ政権からバイデン政権が引き継いだ政策になっています。
――「宗教と軍事安全保障」がリンクしている、ということですね。アメリカの対中国強硬外交は日本では「経済や雇用の問題」などとしてとらえられがちですが、宗教保守の理屈では「中国は宗教弾圧、特にキリスト教徒を迫害しているから許せない」であり、「信教の自由」を守ることが宗教保守の支持を得ることにつながるとの指摘が松本先生の著作にありました。宗教を視野に入れると経済政策も違って見えてきます。
松本 メガチャーチはエンタメだけでなく、福祉的な役割も果たしています。例えば、アルコールや麻薬の依存症、うつ病などのメンタルの問題を抱えている人たちに対して、各分野の専門家、カウンセラーを集めてどう対応するべきか情報などを提供している。また、アメリカでは医療保険が非常に高いですが、教会単位で集団加入することで保険料を下げ、貧困層の世話をしてもいます。
だからこそ、福音派は「福祉国家である必要はない」と小さな政府を支持します。聖書には「ものやお金をたくさん持っている者は天国の門に入れない」という文言があり、メガチャーチに来る富裕層は天国に行きたいがために「自分の意思」で財を喜んで捨てる、つまり寄付をする。それによって貧困層が恩恵に授かる。こういうものが正しいコミュニティのあり方なのであって、強制的な徴税はおかしい――と、こう考えるわけです。
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