電通に政府の仕事を丸投げできなくなったら、どこが引き受けるの? 「悪の政商」呼ばわりへの反論を聞く
#電通 #批判 #新型コロナウイルス
「電通への委託」をもたらしたのは日本国民自身
――行財政改革というと、民主党時代の事業仕分けを思い出します。
A氏 森内閣の中央省庁等改革や小泉内閣の特殊法人等改革もあったので、それだけとはいえませんが、確かに影響は大きかった。
言ってみれば、電通に委託せざるをえない状況をもたらしたのは、ほかでもない国民自身なんですよ。民主党の事業仕分けをリベラル系を中心にマスコミ各社が煽り立てて「政府の事業予算を減らせ! 国家公務員を減らせ!」と国民が喝采した。その帰結がこういうことになってしまった、ともいえます。
――300万を超える事業者に給付金を届けることは、経産省だけじゃできないですよね。
A氏 ただでさえ国会対応などに追われ、過重労働で苦しんでいる官僚たちに、そのようなことをさせるべきではない。そもそも職務要件が違いすぎるし、官僚がやるべきではない仕事はアウトソースするのが当然という感覚が広がるべきです。
そうなると民間企業に委託するしかないわけですが、大量の人足を即座に集めて高度なオペレーションをさせることのできる企業なんて限られてくるわけですよ。それこそ電通だとかJTBだとか、人材系のパソナだとかパーソルだとか。
――人手が足りなくて、ときには子会社や取引先などの社員も総動員してるのに「身内企業への外注で甘い汁を吸わせる」なんて言われているわけですか。
A氏 「電通の利権」なんて無責任な批判をする人に聞きたいのですが、じゃあ、あなたの地元の中小企業で、そんな仕事を受けられるんですかと。できるわけがないんですよ。
逆に「電通に政府の仕事を丸投げできなくなったら、どこが引き受けるのか?」と言いたい。こういったら悪いけど、打診されて断ってる会社もあるはずです。某大手広告代理店とかRとか、大手SIerとか総合商社とか(筆者注:同じ中小企業庁の家賃支援給付金事業はリクルートが受注)。
批判に表立って反論することができないので言われっぱなしになっていますが、ホントのところ国のために使命感をもって引き受けたのに、石を投げられて悲しい気持ちになってるかもしれませんよ。
複数企業の役割分担と調整をする場が必要
――ただ、電通側でもサ推を必要とする理由があったんではないでしょうか。
A氏 そりゃ、持続化給付金事業の場合は、給付金自体が巨額の預かり金となるので、経理上そんなお金は会社として受け取りたくない。それに、大規模な事業の場合にはすべてを一社だけではやりきれず、必ず複数の会社が関わります。
持続化給付金の申請サポート会場は、昨年6月の時点で全国に550カ所以上に上っているんです。会場や人員の確保、セキュリティの確保、システムの維持管理、書類の保管など、すべてを電通だけでやるのは不可能です。契約上でも、複数事業者で業務遂行することになっていたと思います。
そこで全体の役割分担や調整を行う「事務局」が必要になりますが、持続化給付金事業の場合は、それがサ推であり、厚労省の「COCOA(ココア)」の場合には、パーソルプロセス&テクノロジー(パーソルP&T)だったということです。再委託の費用が契約の90%を超えていることを東京新聞が問題視していますが、逆に割合が低ければ「中抜きしすぎ」と批判するに違いありません。
受託者側に問題がまったくなかったとは言い切れませんが、こんなことでメディアから袋叩きにされると、今回のような緊急事態に際して政府の仕事を受けてくれる会社が現れなくなりますよ。
――「COCOA」では、なぜパーソルP&Tが選ばれたのでしょう。
A氏 理由はわかりませんが、パーソルグループにはアウトソーシングを受託する部門があるのでノウハウを買われたのでしょう。別の大手SIerから「そんな金額と納期ではとても」と断られたという噂を耳にしましたが、どうなんですかね。
――「COCOA」の不備の原因はどこにあったのでしょうか。
A氏 これも電通と同じくパーソルP&Tの責任を問う声がありますけど、発注した厚労省の検収がきちんと行われなかったという話もありますし、そもそもの要件定義がおかしかったのではとの指摘もあります。
大元には日本政府のIT発注者の専門性が低すぎる問題があって、そこにITゼネコンといわれる大手SIerが付け込んで儲けてきたという経緯があるわけですが、こういう肝心なときに彼らが登場していないのは皮肉な話です。
――持続化給付金の支給や「COCOA」だけでなく、新型コロナウイルスの感染拡大状況の把握なども含めて、日本政府のデジタル化の遅れがもたらした問題が大きかったですね。
A氏 いつものことですが、こういう外圧が来るまでデジタル庁が実現しなかったのは悲しいことです。彼らの役目は他の省庁の縦割りの仕事に横串を刺していくことなので、各省庁の発注者たちの仕事を引き剥がすことから始まります。抵抗はあるでしょうし、簡単な仕事ではないでしょうね。
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