“キング・オブ・アウトロー”瓜田純士「ふとした瞬間に昔の自分に戻りそうになる」──映画『すばらしき世界』に過去の自身を重ねる
#映画 #ヤクザ #長澤まさみ #役所広司 #仲野太賀 #すばらしき世界
刑務所上がりの人って、マスコミの食い物にされがちなんですよ
純士 とはいえ、途中で行き詰まって、九州にいるヤクザ(白竜)の元へ身を寄せたときは危うかったけどね。実際いるんですよ、ああいう白竜みたいなヤクザ。出所後に困っている兄弟分に対し、「俺んとこで骨休めをしろ。しばらく面倒を見てやる」みたいな人。で、結局はそこにいるのがラクだから、仲間入りしちゃうパターンが多い。“ヤクザあるある”ですね。
長澤まさみ演じるプロデューサーが、だんだん冷めていって、企画そのものが立ち消えになるのもリアルでした。刑務所上がりの人って、マスコミの食い物にされがちなんですよ。俺が出所したときも、「本を出しましょう」みたいな感じで何社か寄って来ました。で、酒を飲みながら打ち合わせまではするんだけど、その後、待てど暮らせど連絡が来ない、なんてことはザラで。痺れを切らしてこちらから連絡をして、「あの件、どうなってますか?」と聞くと、予算がどうのこうの、コンプラがどうのこうのと、はぐらかすような答えが返ってきて、俺がブチ切れる……みたいなことが何度かありました。今はもうそんなことでは怒りませんけどね。旬を過ぎた奴は使わない、というのは理解していますから。
麗子 長澤まさみは、そういう熱しやすく冷めやすい業界人をうまいこと演じてはったわ。二の腕を出して飲んでるシーンも妙に生々しかったし、土手で体当たりの演技もしていたし、すごい女優にならはったな。
純士 どちらかというと嫌われ役なのに、よく引き受けたよね。
麗子 それが格好よかった!
恭子 「虫コナーズ」のCMに出ている長澤まさみもいいよね。映画と関係ないけど。
──三者とも絶賛ムードのようですが、気に入らなかった点は?
純士 三上が自動車教習所で、刑務所仕込みの行進をやっちゃうシーンがあったけど、そこだけリアリティがなかったかも。コントみたいだなって。
恭子 いやいや、刑務所の垢を落とすには、入っていた年数の2~3倍の年数を要するという説もあるから、あの行進は違和感なかったわよ。
麗子 純士も自宅で入浴するときの所作が、いまだに刑務所仕込みっぽいで(笑)。私が唯一引っ掛かったんは、三上の元嫁(安田成美)が、再婚しているくせに変なタイミングで電話してきたやろ。あれに腹が立った。三上も三上で「あの可愛い子どもを連れてくるなら」みたいにヤニ下がっていたけど、自分の子ちゃうやろ。キモいわ~。
純士 あと、映画の終わり方が唐突すぎる気がしたけど、どう?
麗子 それは時間の都合や。
純士・恭子 (笑)。
麗子 でもよく考えたら、もし三上に奥さんや恋人がおったら、ああいう結末にはならなかったでしょう。だから、出所したら誰かをずっとそばにおいて、その人にずっとおってほしいんやったら真面目に働いて更生して……っていうのが正しい道筋なんやろうね。あともう一つ、この映画から学んだんは、刑務所を出るといろんな人が寄ってくるけど、誰と付き合うかでその後の人生は天と地ほど変わるってこと。つまりは、人を見極める目を磨かなアカンねん。純士はお人好しいうんかな、誰のこともすぐ信じてしまうようなとこがあるから、気ぃつけや。
──純士さんからも総括のコメントをお願いします。
純士 どの場面だか忘れたけど、ディレクター役の仲野太賀が三上に対し、「カタギとしての俺はこう思います」みたいなことをピシャリと言い放ったじゃないですか。あれがすべてかな、って思います。要するに、ヤクザの世界に近い人はいつまで経ってもその世界の“男論”を通したがるけど、世の中の多くはカタギなんだから、それに合わせないと生きていけない。それが嫌だったりダサいと思うなら、刑務所に行くしかないってことですよ。
恭子 三上の考えは世間の1~2%でしか通用しない。あとはほとんどディレクターと同じ考えだもんね。
純士 それに合わせることが本当の更生。
恭子 それが「普通に生きる」ってことよね。
麗子 ……っていうことを再確認できたので、瓜田家の周囲でゴタゴタが起きている今、この映画を観て本当によかったと思います。
(取材・文=岡林敬太)
『すばらしき世界』瓜田一家の採点
純士 75点
麗子 100点
恭子 80点
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