“キング・オブ・アウトロー”瓜田純士「ふとした瞬間に昔の自分に戻りそうになる」──映画『すばらしき世界』に過去の自身を重ねる
#映画 #ヤクザ #長澤まさみ #役所広司 #仲野太賀 #すばらしき世界
“キング・オブ・アウトロー”こと瓜田純士が、森羅万象を斬る不定期連載。今回のテーマは、殺人で服役していた元ヤクザが社会復帰に悪戦苦闘する姿を描いた映画『すばらしき世界』だ。主人公と似た苦労を今まさに味わっている瓜田は、この映画にいかなる反応を見せるのか?
直木賞作家・佐木隆三の小説『身分帳』(講談社文庫)を原案に、西川美和監督が映画化した『すばらしき世界』は、実在した男をモデルにした物語だ。殺人の罪で13年間服役し、出所してきたばかりの三上(役所広司)。そんな彼のもとへディレクター(仲野太賀)とプロデューサー(長澤まさみ)が訪れ、更生の過程を密着取材することに。三上は、保護司の庄司夫妻(橋爪功・梶芽衣子)や近所のスーパーの店長(六角精児)らの助けを借りながら職探しを始めるが、短気で真っ直ぐすぎる性格ゆえ、やがてトラブルを起こしてしまう──。
事前にあらすじを読んだ瓜田の妻・麗子は、「この主人公、純士そのまんまやん!」と叫んだ。確かに瓜田は、元ヤクザで服役経験があり、出所後にマスコミの取材を受けた過去もある。おまけに短気で、かつてはトラブルメーカーだった。ここ数年はすっかり落ち着いたように見えるが、「それでもいまだに、ふとした瞬間に“昔の自分”に戻りそうになり、家族に心配をかけることもある。つい先日もそういう出来事があり、嫁に引き止められたばかり」と、瓜田は苦しい胸の内を明かす。
今回はそんな瓜田夫婦と、役所広司のファンだという瓜田の母・恭子が映画を鑑賞し、感想を語り合った。
主人公の傷つきやすいところが自分に似ているな、と
──映画をご覧になっていかがでしたか?
瓜田純士(以下、純士) 役所広司演じる三上の気持ちが、痛烈にわかる! けど、最初に一つ言っておきたいのは、彼は本当に恵まれている部類だということ。ディレクターや保護司らが、終始支援してくれる立場でしたから。ここまで恵まれた元受刑者は100人に1人。残り99人はうまくいかないんですよね。
で、その恵まれているところに俺はものすごく共感したんですよ。なぜなら俺も恵まれていたほうだから。出所したばかりの俺のことを心配して、目を離さないで見守ってくれていた人たちが複数いたんです。
人って期待されたり応援されるほど更生に近づくんです。でも多くの人は期待されないから、またムショに逆戻りしちゃう。そこを解決しないことには再犯率は下がらない……っていう難しい問題はおいといて、いい映画でした。
瓜田麗子(以下、麗子) 最近観た映画の中で一番かも。
瓜田恭子(以下、恭子) 地味ながら染みる映画で、何度も泣いちゃった。役所(広司)さんって、やっぱすごいな。あんな地味な、元囚人の生活をやり切るのがいいね。部屋着の冴えなさ具合とか、身体の老い具合とかも、悲哀たっぷりで最高でした。
純士 シャバの生活になじめない、古いヤクザ像がよく出ていたよね。映画の序盤は「三上は不器用だなぁ」と第三者目線で観ていたけど、中盤あたりからは、彼の愚直なところとか、傷つきやすいところが自分に似ているな、と思い始めました。
麗子 怒りっぽいところが一番そっくりやで。
純士 そんな三上に振り回されながらも、最後まで義理堅く追いかけ続けるディレクター役の仲野太賀もめちゃくちゃよかった。
恭子 中野英雄さんの息子さんよね。あの子、いい役者よねぇ。
純士 ああいうマスコミと元受刑者の関係って、実際に起こりえるんですよ。でも俺の場合、手を差し伸べてくれた人たちに唾をかけるような真似をたくさんしてきてしまったな、ってことも思い出しました。ちょっとしたことで癇癪(かんしゃく)を起こして、自分から人間関係をいくつも壊してしまったんですよ。そんな中、最後まで俺を見捨てることなく、「まず酒とタバコをやめろ」「悪い人間関係を切れ」と指導し続けてくれた嫁に、改めて感謝したくなりました。
恭子 ひよっけ(麗子の愛称)のおかげで今の純士があるからね。
麗子 純士は明るく振る舞っているけど、実はいまだに暗い問題をいくつも抱えていて。最近も昔の悪友からちょっかいを出される出来事があったから、私は純士に、直接戦うのではなく、警察に被害届を出すことを勧めたんです。昔のように酒でも飲んで、捨て鉢な行動に出てしまったら人生オシマイ。一時の感情で懲役10年、15年、下手したら無期懲役……なんてのはアホらしいから、「まともに相手しやんとき。“逃げる強さ”を身につけなアカン」と言って聞かせました。10年、20年先を見据えたら、その対処法で間違っていなかった。この映画を観て、改めてそう確信しました。
純士 映画の中でも、三上がグッと堪えるシーンがあったでしょう。あの心境、ものすごくよくわかるんですよ。また、「堪えることによって生活は守られるけど、同時に失ってしまうものもある」ということを描いている点もよかった。コスモスのシーンね。「すまん……! 俺はお前を見殺しにした」とでも言いたげな、三上の表情が忘れられません。つらいし切ないけど、あの場面は、ああするしかなかったんでしょう。
そういう細かい心の葛藤が丁寧に描かれている映画だなと思いました。姐さん(キムラ緑子)が三上の耳元でよからぬことを囁いて、ふと我に返ったように「冗談よ」と誤魔化す場面とかも、たらまないよね。あれ、絶対、よくないものを持っていたわけでさ。
恭子 絵的な派手さはないんだけど、ウルウル来るシーンも多い映画だったなぁ。雪の中の出所シーンしかり、自転車のシーンしかり、孤児院のサッカーシーンしかり。
──三上が出所するときに刑務官から優しい言葉をかけられていましたが、実際ああいうことって、あるんでしょうか?
純士 田舎の刑務所だとあるのかも。ちなみに俺が府中刑務所にいたときは、出る前日に刑務官からこう言われましたよ。「明日は食べたいものを真っ先に食べたほうがいい。その前にひと口もタバコ吸うな」と。
麗子 なのに、出るなり吸ったんやろ?
純士 うん(笑)。そしたら何も食えなくなった。それぐらいニコチンが回って、食欲がなくなっちゃったんですよ。ドーナツ食べたいとか、うなぎ食べたいとか、あれこれ考えていたのに……。
恭子 そういえば純士が府中から出た日は、私が迎えに行ったのよね。私、純士にしがみついてワンワン泣いちゃった(笑)。三上は母親が消息不明で、出迎えが誰もいないのが気の毒だったけど、その代わり、保護司とかスーパーの店長など、その後にかかわる人たちが、何が正しいのかを諭してくれる人ばかりだからよかったわ。
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