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日刊サイゾー トップ > エンタメ > テレビ  > 『家つい』今が「一番楽しい」と2人の女性

『家、ついて行ってイイですか?』今が「一番楽しい」と言った2人の女性

「目が悪くなっても、ハードルが高くなっただけ」

 深夜の大岡山駅前でスタッフが声をかけたのは24歳のOLの女性。「家、ついて行ってイイですか?」と尋ねると、「タクシーで帰れるなら」と彼女は承諾してくれた。

 女性の職業はユニバーサルデザインのコンサルティング業。子ども、高齢者、障がい者、外国人、多くの人がわかるようなデザインの商品をコンサルティングする仕事だ。

 田園調布にある実家で生活中だという彼女の自宅へタクシーで向かうが、車を降りてから彼女は家がどの方向にあるのか迷った。

「待って、家の場所がわかんないかもしれない。ごめんなさい。え、そこにファミマありますか? ……あっ、通り過ぎちゃった。ごめんなさい」

 1度は家を通り過ぎたものの、引き返して無事に自宅に到着することができた。ところで、彼女はどうしてユニバーサルデザインの仕事に就いたのか?

「大学4年の就職活動をするときに、ちょうど目が悪くなったんですよ。弱視。コンタクトとか眼鏡である程度視力が出れば日常生活に問題はないんだけど、視力が出ないから弱視っていうものになるんだと思います」

 彼女の弱視は突然始まり、半年の月日をかけて悪くなっていったという。朝起きてiPhoneを見ると漢字がぐにゃぐにゃに見え、読めなかったのが最初だ。そこから、次第に小さい文字も読めなくなっていった。「疲れているのかな?」「気のせいかな?」と思ったものの、見え方は昨日と確実に違う。「これは視力が落ちているだけではない」と、ようやく彼女は気付いた。この弱視の原因は特にない。病気は突然訪れることがあるのか。怖い。

「出版広告がやりたくて内定いただいたんですけど、見えないとできないから(内定が)全部ゼロになっちゃったんですよ。で、一旦就活をやめて障がい者雇用で就活し出したときに、この目自体はユニバーサルデザインの考え方に使えるなと思って」

 現在の彼女の視界は“明るい”“暗い”がわかるくらいで、視力の数値はないという。「目の前に人がいる」となんとなくわかる程度。先ほど、家の場所がわからなくなったのはそれが理由だ。医者の勧めで障がい者手帳を取得した彼女は、白杖も持っている。

「白杖ありますよ。どこやったっけ……(手探りでベッド上を探るも、見つけられず)。こういう感じで物をどこに置いたかがわかんなくなっちゃうんですよね」

 スマホの文字は大きく拡大しないと読めない。駅に行ってもそこが何番ホームかわからないし、小銭も10円か100円なのかがわからない。ギザギザがあるかないか、手触りで判別するのだ。メイクもこれまでの倍の時間がかかる。近づいて鏡を見ないと仕上がりがわからないからだ。今までできたことが、毎日1つずつできなくなっていく。そんな生活ぶりを聞くと、今回の取材をよく受けてくれたと思う。

「でも、しょうがないですよね。めちゃくちゃお金をかけたら治るとか、そういう手立てがあるわけじゃないから、あんまりそこは悔しがらないようにしてます。『今が1番楽しい』って言い続けなきゃいけないと思って、頑張ってる」

 すごい精神力だと思う。ある日、スマホの文字がぐにゃぐにゃに見え、そして目が見えにくくなった。彼女にとって衝撃的なことのはずだ。なのに、カメラの前で淡々と語っている。強い。この人を応援せずにいられない。

「目が悪くなっても、普通の女の子や今までの自分とやりたいことは一緒です。変わんないです。だから、今はやりたいことは色々やるようにしてます」

 彼女のやりたいこととは、ロングスケートボードである。長めのスケートボードで滑ったまま、ボードの上でステップを踏んで踊る。こうすると映える。彼女が目指すはシティガールだ。

「目が悪くなる前からロンスケ(ロングスケートボード)はやりたかったんですよ。目が良いとか悪いとか、やりたいことには関係ないなあって思って。やるためのハードルとか道のりがちょっと険しくなったぐらい。見えないからって何かしないわけにはいかないですよね」

 ロングスケートボードに乗る彼女は、文句なしにカッコ良かった。見えなくなっていくのは恐怖だったはずだが、彼女の前向きさに救われる。今まで多くのことを乗り越え、こんな明るく喋れるようになったのだろう。失望せず明るく生きようとする強さが表れた彼女の顔は輝いていた。筆者より遥かに年下だが、尊敬している。

寺西ジャジューカ(芸能・テレビウォッチャー)

1978年生まれ。得意分野は、芸能、音楽、格闘技、(昔の)プロレス系。『証言UWF』(宝島社)に執筆。

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最終更新:2021/03/03 22:00
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