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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 中国の殺人虎映画、ベタなのに凄いワケ

殺人虎を素手で倒す! 低予算&ベタでもケレン味で魅せる中国映画『タイガーハンター 水滸外伝』

──劇場か、配信か。映画の公開形態はこのどちらかに偏りつつあるが、その中間が存在していることを忘れてはならない。YouTubeやVODで観られる劇場未公開の傑作をライター・加藤よしきが熱烈レビュー!

殺人虎を素手で倒す! 低予算&ベタでもケレン味で魅せる中国映画『タイガーハンター 水滸外伝』の画像1
© 2020 Tencent. All Rights Reserved.

 人間は猿である。たまたま脳ミソが大きく、道具を使うことができたから、地球の生態系の頂点に立てた。そして今現在でも道具がなければ、人間は地球では弱者であろう。ニホンザルにも勝てるか怪しいし、まして大型肉食獣には勝てるわけもない。猿は虎には勝てない、これこそ自然の摂理である。だからこそ、人は素手で獣を制する物語に憧れるのだ

 熊、ライオン、虎……多くの英雄たちが猛獣を制してきた。『空手バカ一代』で大山倍達は猛牛と戦い、『ワンピース』のルフィは近海の主であるデッカい魚を殴り倒した。野性を生身で制する、これぞ真の英雄の証である。今回ご紹介する『タイガーハンター 水滸外伝』(2020年)も同様だ。この映画は虎と戦う男の物語である。もちろん真の英雄が主人公であるから、虎との勝負に凶器は一切なしだ。

殺人虎を素手で倒す! 低予算&ベタでもケレン味で魅せる中国映画『タイガーハンター 水滸外伝』の画像2
虎を素手でいく男・武松(© 2020 Tencent. All Rights Reserved.)

 とりあえず詳細を省いて総括すると、この映画は凄い。96分しかないが、功夫映画であり、モンスターパニック映画であり、コメディでもある。一応は中国の古典『水滸伝』の登場人物がモチーフになっているのだが、『水滸伝』を知らなくても全く問題なしだ。この映画はそれくらいわかりやすくて面白い。

 さてお話はというと……。時は14世紀の中国。世は乱れ、役人は腐敗し、人々が苦しむ乱世の時代。そんな時代に美女を連れて夜の森を進むバカ役人がいた。結婚相手を連れての移動だったが、性欲に負けたバカ役人は、嫁入り前で、しかも周りに護衛や付き人がいるにもかかわらず「辛抱たまらん!」と盛り上がる。その時、森の中から不気味な気配が。護衛の兵士たちが気配のした方へ向かうと、闇の中から可愛らしいウサギが顔を出す。「なんだ、ウサギかぁ」そうホッとしたのが良くなかった。直後、巨大な殺人虎が出現し、彼らに襲い掛かる。そして特殊効果チームの「俺ら『エイリアン』(1979年)が大好きなんだ!」という意気込みが伝わってくるような、あのゼノモーフの「間」と「テンポ感」を完コピして虐殺を繰り広げるのであった。

 一方その頃……大事な書類を持った正義の役人たちが盗賊に襲われていた。書類を守ろうと奮戦するも、瀕死の重傷を負う正義の役人。あわやというところで1人の酔っぱらいが現れ、素手で盗賊たちを叩き伏せてしまった。「俺は無類の酒好きで、腐敗した世界の悪党殺しだ。その名も武松(ぶしょう)。武さんと呼べ!」武松のキメ台詞・強さ・男気に胸を打たれた正義の役人は、重要書類を彼に託して息絶える。義に厚い武松は、書類を言われた通りの場所へ届けることに。

殺人虎を素手で倒す! 低予算&ベタでもケレン味で魅せる中国映画『タイガーハンター 水滸外伝』の画像3
© 2020 Tencent. All Rights Reserved.

 するとそこにはセクシー人妻ツンデレ女忍者という、属性の満漢全席みたいな女・三娘が待っていた。「妙に首筋に汗をかいてる」「妙に水に濡れる」など、向こうの検閲の限界を感じさせるセクシーシーンを披露しつつ、武松とイイ感じの距離を詰める三娘(なお男の裸体に関する検閲は緩いので、武松はバンバン脱ぎます)。しかし、真の英雄は人妻に手を出さない。書類を渡した翌日、武松は三娘のもとを去ろうとするが、そこに先日の盗賊団が報復にやってきた。100人の戦闘員に加え、短刀使いや、全身がゴムのような脂肪に包まれていて打撃が効かない、平たく言うとハート様みたいな人など、個性豊かなメンバーが武松に襲いかかる。しかし、真の英雄に後退はない。矢を受けたりもしたが、頑張って素手で100人をシメる武松。そしてシメ終えると、武松はその足で旅路に戻るのであった。

 そんな武松の前に、今度は悪の権力者が立ちはだかる。交渉もそこそこに、キメキメの動きで矢を打つ悪の権力者。また矢が突き刺さる武松。絶体絶命の危機であるが、そこにあの殺人虎が乱入してきた。悪の権力者の顔面をエグり、その取り巻き連中をアッサリと食い殺す。そして殺人虎は負傷した武松も喰らおうとするが、そこは真の英雄・武松。100人を殴り倒し、悪の役人の弓を受けてもなお、拳を構えて殺人虎を迎え撃つのであった。

 一進一退の死闘の末、殺人虎をブン投げて黙らさせた武松。トドメを刺そうとした、その刹那──真の英雄・武松の頭の中にある思いが浮かぶ。「この殺人虎は悪人たちを喰い殺して、俺を助けてくれた。つまり命の恩人ではないか?」英雄は相手が何だろうと決して借りをつくらない。殺人虎のヒゲを引っこ抜くと、「善良な人を食うな!」と正論で叱り飛ばす。武松の迫力に度肝を抜かれた殺人虎は、スゴスゴと去っていく。危機を乗り越えた武松であったが、ようやく体力の限界を迎えて気を失ってしまうのだった。

殺人虎を素手で倒す! 低予算&ベタでもケレン味で魅せる中国映画『タイガーハンター 水滸外伝』の画像4

 そして目覚めると──武松の前には三娘がいた。さすがに少し休むことにした武松。しかし同刻、あの殺人虎に顔面をエグられた悪の権力者は、復讐に燃えていた。傷ついた顔の半分を仮面で覆い、武松を殺すべく装甲でカスタムした自前の殺人虎を持ち出す。果たして武松の運命はいかに?

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