妻の怨念と夫の観念を描くマンガ『妻が口をきいてくれません』圧巻の“胸クソ”読後感
#マンガ #結婚 #離婚 #稲田豊史 #妻が口をきいてくれません
後味の悪いホラーとしか言いようのない結末
その証拠が、『妻が口をきいてくれません』最終回の最終ページに明示されている。美咲は誠を会社に送り出したのち、パートに出かける直前に自分の通帳を見て「まだこれだけ……」とつぶやく。 “その日”のための準備は、依然として続いている。美咲は誠を許したわけではない。後味の悪いホラーとしか言いようのない結末だ。
専業主婦妻をパートナーとする夫がこのような地獄を避けるには、常日頃から一秒一瞬たりとも休むことなく妻の気持ちを想像し、推し量り、配慮に満ちた言葉をかけ続けるしか方法はない。だが、「常に他人の気持ちを想像し続ける」など、かなり心の余裕がなければできないことだ。
では、どうしたら男は心の余裕が持てるのか?
乱暴承知で言い切ろう。「十分な収入」を確保することである。理由はチャート式で考えれば簡単だ。「心の余裕は自己評価の高さから生まれる」→「多くの男は自己評価=世間からの評価」→「世間からの評価≒仕事の評価」→「仕事の評価は給与額でしか可視化されない」
だいたい、(割高の洗剤を買ったことをチクチク責めるなど)夫が専業主婦妻の一挙一動にいちいちダメ出ししたくなるのは、「俺の稼ぎを、俺の知らないところで無駄遣いしてるかもしれない」という不信感があるからだ。しかし「稼ぎ」が十分に多ければ、些末な不経済などいちいち気にならない。金持ちけんかせず。貧すれば鈍する。
収入の低い夫が妻に配慮できないわけではない。ただその分、夫には尋常でない人間力と度量が備わっている必要がある。身長165センチでもバスケットボール選手になれないわけではないが、そのためには身長185センチの選手を圧倒するほどの尋常でない身体・運動能力が必要だ。それが備わっていてようやく、185センチの選手と同じスタートラインに立てる。
婚活女性が「相手の希望年収は最低600万」などと言ってはよく失笑されるが、あれは筋が通っているのだ。彼女たちがどうしても避けたいのは、「年収が低い男」というより、「妻に配慮する余裕を持ち得ない男」である。心の余裕度はプロフィールに書かれないので、可視化された年収で判断しているにすぎないわけで。
自分で書いていて、本当に胸糞が悪い。なんかもう、全体的に。
※「月刊サイゾー」2021年1・2月号より転載
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