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日本のセックスレス率は47%超──マンガ『1122』が提案するソリューションとしての不倫

「不倫は隠してやるに限る」

 何が悪かったのか。おそらく、2人が互いの不倫(いちこの場合は買春)を、誠実の名のもと相手にオープンにしたことが、すべての間違いだ。

 合理的だの、先進的だの、あたらしい夫婦のかたちだのと偉そうに言ったところで、人間の抱く「私の大切な人に私が与えられないものを、別の人が与えている」ことに対するやっかみは、消すことができない。それが、BL同人誌やLDHのグループ変遷史やマーベル映画の詳細世界観のように、一朝一夕では身につけられないマニアックな趣味の知識ならともかく、誰もが等しく生物学的な機能として持ち合わせているファック能力についての戦力外通告となると、“合理化の一環”では済まされない。正社員としては屈辱だ。

 結局、おとやんの不倫にしろ、いちこの買春にしろ、“黙ってやっときゃよかった”のだ。黙っていれば相手のプライドは傷つかない。屈辱を味わわせなくて済む。結論がシンプルにて恐縮だが、「不倫は隠してやるに限る」のだ。

 しかも、恋や性によるときめきは人に生きる活力をもたらし、リフレッシュを促し、ポジティブで前向きな気分にさせる(作中にそういう描写もある)。その結果、周囲の人間に対して優しく、寛容になれる。そう、めぐりめぐって結婚相手もメリットが享受できるのだ。落語調に言うなら「最近、女房の機嫌がやけにいいんだよ。外で不倫してるから。ありがたいねえ。不倫バンザイだ」ってなもんで。

 セックスレス夫婦にとって大事なのは、セックスレスの解消ではない。セックスがなくても相手とうまいことやれるよう、秘密裏に外注先を確保して、自分のメンタルを健全に保っておくことだ。

 不治の病に冒されて死を待つだけの患者にとって大事なのは、ありもしない病気の治療法を血眼になって探し、もがき苦しむことではない。どうやって病気とともに生き、意義のある余生を送るかである。……だって、しょうがないじゃん。勃たないものは勃たないし、濡れないものは濡れない。治らないものは治らない。腹を、くくらねば。

「結婚は人生の墓場」とはよく言ったもの。避けられない死に向かう闘病生活は、セックスの間隔が1カ月以上開いた瞬間から、早くも始まっている。

「月刊サイゾー」2019年9月号より転載

稲田豊史(編集者・ライター)

編集者/ライター。キネマ旬報社を経てフリー。『映画を早送りで観る人たち ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形』(光文社新書)が大ヒット。他の著書に『ポテトチップスと日本人 人生に寄り添う国民食の誕生』(朝日新書)、『オトメゴコロスタディーズ フィクションから学ぶ現代女子事情』(サイゾー)、『「こち亀」社会論 超一級の文化史料を読み解く』(イースト・プレス)、『ぼくたちの離婚』(角川新書)などがある。

いなだとよし

最終更新:2021/03/15 14:00
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