池脇千鶴の皺や脂肪まで肉体を入れ込む役作りに感動! 函館3部作『そこのみにて光輝く』
#映画 #綾野剛 #菅田将暉 #キネマ旬報 #池脇千鶴
ハッピーエンドじゃないけど…美しいラスト
主人公・達夫が、千夏になんとなく惹かれていくことから物語は進んでいくのですが、私はこの〝なんとなく惹かれるポイント〟をしっかり描いているところが素敵だなと思ったんです。夜の仕事をし不倫をし、親の介護もし、お付き合いするにはちょっと難しい女性じゃないですか。
でも作品中には、そんな千夏の可愛らしい一面が、沢山散りばめられているんです。
例えば、達夫に海に誘われた時。部屋からわざわざ麦わら帽子を持ってきて、鏡で被る姿だったり。達夫の家の玄関を出る時に、ほんのちょっぴり声色を変えた「じゃあ、終わったら電話して。じゃね。」と微笑んで髪をかきあげる仕草だったり。スナックのママに「女の顔して」と言われ「もとから女ですけど」と反論する場面があるんですけど、その時の表情は、本当に女の顔なんですよね。
ところどころ垣間見える女の千夏に、思わずきゅんとするんです! そのさりげない入れ込み方、匙加減がなんとも絶妙! 女の魅力を、この凄まじい生活環境の中でみせられるって、本当に難しいことだと思いますが、見事に表現されています。
達夫との出会いから心が動き出した千夏。そんな千夏が最も美しいのは、やはりラストシーン! 人生に光が差し込んだ千夏、達夫、拓児だったのですが、ある事件をきっかけに再びどん底に突き落とされます。ただ普通に生きたいだけなのに、それさえも叶わず、まだ沼底から抜け出せないのです。
絶望の中涙する千夏が海辺へ歩いていき、ふと後ろを振り返ると、目の前に真っ直ぐな瞳で見つめる達夫と、その後ろで輝く太陽。太陽に照らされた千夏のアップが映し出され、涙を流しながら微笑むんです。劇中、基本的に曇り空でどんよりしているのですが、ここではあたたかいオレンジ色の光が2人を照らしています。決してハッピーエンドではないのですが、きっと千夏にとって、達夫が光となってくれるのでないかと思わせてくれる、美しいシーンです。
この池脇さんの表情は忘れられない……! 闇に閉ざされた人生だとしても、一瞬でも輝きはある。それが、他の人には気づかれない瞬間だとしても。その愛おしい瞬間が映像で見られたような、そんな気がしました。
クレジットが流れる前に、『そこのみにて光輝く』の手書きのタイトルが出てくるのですが、それが何だか胸に残るんですよね。後から調べてみて、原作者・佐藤泰志さんの原稿の文字を使用していたことを知りました。真っ黒な背景に浮かぶ、波の音と白く角ばった独特の文字。佐藤さんは、41歳で自ら命を絶ち、その後、約20年の時を経て、作品が映画化し世に広く知られました。映画の登場人物達と同じように、佐藤さんの魂の叫びがこの文字から聞こえてくるようで。
先が見えなくて、もがいて、苦しくて、それでも生きなきゃいけなくて。千夏をはじめ、登場人物全員が必死に生きています。それは、佐藤さん自身の想いも、この映画にのせられているように感じます。
そして登場人物全員に共通しているのが、誰かを想って生きているということ。家族を想う千夏、そんな千夏を大切にしたいと自分を変えていく達夫、破天荒ながらも姉ちゃんを想い、思わぬ方向へ進んでしまう弟の拓児。そして不倫相手の中島の「(家族を)大事にしてっから、おかしくなんだべや!」と言う悲痛な叫びもとても印象に残ります。登場人物其々の想いが、丁寧に、誰も悪人でない描き方をされているので、すごく重たい映画なんですけど、全員の幸せを願いたくなるのです。
今回は千夏を演じた池脇さんをメインにお話しましたが、他の役者陣ももう本当に素晴らしくて、まだまだ語りたりないくらい! 役の人物からも、そして役者自身からも尋常じゃない熱量が、画面越しでも感じられ衝撃を受けます。私もこんなお芝居がしたーーーい!! と、心で叫びました。エネルギー溢れる想いと、美しい一筋の光を、是非皆さまにも感じて頂きたいです!
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