池脇千鶴の皺や脂肪まで肉体を入れ込む役作りに感動! 函館3部作『そこのみにて光輝く』
#映画 #綾野剛 #菅田将暉 #キネマ旬報 #池脇千鶴
こんばんは!宮下かな子です。
映画館で上映している映画、観たい作品が沢山あり、時間を見つけては通って刺激を受けている毎日です。
今年のキネマ旬報ベスト・テンの受賞作品も発表されましたね! 今、日本映画が盛り上がっている気がしていて、とても嬉しいです。最近『ヤクザと家族』『花束みたいな恋をした』を観たのですが、この2つの映画でそれぞれ主演をされていた綾野剛さん、菅田将暉さんが、2014年度キネマ旬報ベストテン1位の呉美保監督『そこのみにて光輝く』(14年)に、ちょうどダブルで出ていらっしゃる! と発見しまして。今回はこの作品をご紹介することにしました!
ずっと昭和の作品をご紹介してきたので、読者の皆さまも驚かれていると思いますが、私自身も何だか緊張しております(笑)。楽しんで読んで頂けたら嬉しいです。
〈あらすじ〉
トラウマを抱え、職に復帰出来ずにいる主人公達夫(綾野剛)は、前科者だが天真爛漫な青年•拓児(菅田将暉)と、拓児の姉・千夏(池脇千鶴)と出会う。家庭を支えるため水商売で働く千夏に、達夫は次第に惹かれていき……。
舞台は北海道の函館市。原作者である佐藤泰志さんの出身地で、佐藤さんの原作で映画化されている『海炭市叙景』『オーバー・フェンス』と合わせて、〝函館3部作〟とも呼ばれています。映画の中の函館は、観光地の煌びやかな通りから一本脇道に逸れたような街並み。函館、という観光地として想像できる地域だからこそ、あえて生活感のある風景が、リアリティーを持たせてくれます。
その街並みからも離れ、海辺にぽつんと佇む廃れた一軒家に、拓児と千夏、そして病で寝たきりの父親と看病する母親の4人が暮らしています。まるで家そのものがこの4人家族のよう。潮風に晒されているしょっぱさと、海に行った時の、乾いてもベタベタ纏わりつく、あの嫌な質感が肌で感じられて、もうぴったりなんです!
出演されているのは、主演の綾野剛さんをはじめ、池脇千鶴さん、菅田将暉さん、高橋和也さん等、お名前を聞いただけで安心感と期待が高まるような役者さんがずらり。語りたいことは沢山あるのですが、今回大変恐縮ながら〝私のなりたい女優像〟について考えさせられるきっかけとなった、千夏役の池脇千鶴さんをメインにお話していこうと思います。
千夏は、昼間に塩辛の加工工場で働きながら、夜はスナックの一室で身体を売り家庭を支えている女性。親の介護や世話もしながら、拓児の勤め先の社長と不倫関係を続けていて、不遇な環境を1人で背負い込んでいます。人生において何かを諦めていて、心が渇ききっている状態。しかし彼女自身ではどうすることもできず、ただ今日を生きるために生きているようで、観ていて本当に苦しくなります。
彼女のその沼底に沈んでいるような生き方が、気怠そうな口調や態度をはじめ、手入れのされていないボサボサの髪型や化粧っ気のない顔、露出の多い服装等から感じられるのですが、池脇さんの肉体からも満ち満ちていて……! 短いショートパンツや胸元の広いトップスから肉付きの良い身体が見え、夜の仕事での生活の不規則さがリアルに感じられるんです。加えてそれが男性たちを包み込む、彼女の包容力をも表現しているようで。
初めて達夫が家に来た時、千夏はチャーハンを作るのですが、むちむちした二の腕の後ろ姿と、達夫の戸惑う表情が交互に映し出されていたり。
達夫や不倫相手の中島と身体を重ねるシーンも多くあり、池脇さんは惜しげもなく曝け出し、真っ向から役にぶつかっています。艶めかしさと、不安や孤独を抱える男性を包み込む優しさが、肉体からひしひしと感じられるのです。
池脇さんが全身全霊で表現されている姿を感じた時、何だか涙が出てきてしまって。ただ細くて綺麗な女優さんには、絶対にできない表現がそこにはあって。女優さんって憧れられるような存在だと思うのですが、やっぱり役を演じる時は、その役の人物の生きてきた証を、例えば皺だったり、脂肪だったり、そういう肉体からもちゃんと表現できる女優になりたいなって、そう思いました。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事