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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 家族を介護する“ヤングケアラー”の孤独と本音

「働く上でなんの意味もない」と就活で否定する企業も……家族を介護する“ヤングケアラー”の孤独と本音

医療現場が軽減できる子どもの不安

――澁谷先生は目下、どんな研究や活動に取り組んでいらっしゃるのでしょうか?

澁谷 今後、埼玉県や大阪府のように学校や自治体で調査が行われていくことになると思いますが、ヤングケアラーが「いる」とわかったときに学校でどういう支援をしていけばいいのか、知見を提供できればと考えています。もちろん日本には日本のやり方があるとは思いますが、ひとつには「イギリスではこんなことが効果があった」といったことを教育機関や行政と連携して伝えていきたいですね。

 また、医療現場の方にヤングケアラーについて知っていただきたいんです。例えば「お母さんは統合失調症です」と医師からいわれても、子どもはそれが意味するところがなかなかわからなかったりする。ですから、「この病気になると、こういう状況になる可能性が高い。こういうことを言うようになったり、こんなことができなくなったりする」といったことを伝えてもらえるようにしたいと思っています。

 「薬を飲むとお母さんが朝起きられなくなったりすることもある。自分で起きて朝ごはんを食べて学校に行かないといけない場合もあるから、前の日にバナナやパンを買っておくといい」といった具体的な日常の備えについてアドバイスしたり、「自分が悪い子だからお母さんの病気が重くなったのかもしれない」という子どもがしがちな解釈に対して「そうではないんだよ」と伝えたりして、不安を軽減してあげる。その病気が家族にもたらす影響の見通しが医療現場の方にはあると思いますから、それを子どもたちがわかるように「家族はどうサポートし、振る舞えばいいのか」を教えてもらうことが必要だと考えています。

 現状ですと、医療現場では「あ、ご家族がいらっしゃるんですね。安心ですね」ととらえられがちなんですけれども、中学生・高校生からすれば、お医者さんや看護師さんが丁寧に情報を与えてくれるわけではなく、誰も教えてくれないので、「部活できるの?」「生活できるの?」「誰かに頼れるの?」ということが何もわからない。そこは誰か考えてくれていいのかな、と。何もわからないまま体力で乗り切ろうとして燃え尽きてしまったり、人間関係がギクシャクしたり、学校の記憶が「誰もわかってくれない」で終わったりすることが多いですから。そうではなくて、誰かにサポートしてもらえた、自分のことをわかってもらえたという経験が、その後の人生において活きてくるはずです。ヤングケアラーが置かれた構造を、接点となる人たちみんながわかるように伝えていけたらと考えています。

●プロフィール
澁谷智子(しぶや・ともこ)
1974年生まれ。 成蹊大学文学部現代社会学科教授。専門は社会学・比較文化研究。著書に『ヤングケアラー――介護を担う子ども・若者の現実』(中公新書)、『コーダの世界――手話の文化と声の文化』(医学書院)、編著に『女って大変。――働くことと生きることのワークライフバランス考』(医学書院)などがある。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2021/02/15 19:00
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