人間を「クスリの製造工場」に変えてしまう、未来のバイオベンチャーの実力
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承認薬ゼロなのに時価総額は1.7兆円
「モデルナでは、何百人もの博士たちが束になってクスリを開発しているわけですから、それは強いですよね」
東京医科歯科大学の位高啓史教授によれば、モデルナはありあまる資金力に物を言わせて、アカデミーの世界のトップ頭脳をたくさんヘッドハントしている。実際に同社の従業員約830人のうち、その50%以上が医学分野などの博士や、専門性の高い修士以上の研究者たちが占めているのだという。
すでに創業して10年がたっており、水面下で仕込んでいるクスリの数は、合計で23製品にものぼる。さらに15製品は、商品化に向けた臨床試験が進んでいるのだ。
そこにはガンなどに使うことができる治療薬であったり、ジカ熱やインフルエンザなどに使うためのワクチンなども含まれている。
「一方、彼らはその研究成果をほとんど発表しません。そのため治療薬を作る上でのノウハウが宿る、詳細についてはすべて企業秘密として外には出ていません」(位高氏)
またモデルナ社にかかわったことがある複数の研究者らは、その経営スタイルを「マーケティング重視」だと指摘している。つまり、よくも悪くも、セールストークが上手な会社だということだ。だからこそ承認薬がまだゼロにもかかわらず、空前の1.7兆円という時価総額をほこるようになったとも言える。
現在モデルナは、新型コロナのワクチンの大量生産を見越して、生産体制を強化。約2万平方メートルという広大な工場を作り上げて、24時間体制のオペレーションをする準備を整えているという。
果たして未来のワクチンが、そこから出荷されて、パンデミックから私たちを解放する日は近いのだろうか。新型コロナがこの秘密の多いベンチャーの実力を、試すことになりそうだ。
後藤直義(ごとう・なおよし)
1981年生まれ。青山学院大学文学部卒。毎日新聞社、週刊ダイヤモンドを経て、2016年4月にソーシャル経済メディア『NewsPicks』に移籍し、企業報道チームを立ち上げる。グローバルにテクノロジー企業を取材し、著書に『アップル帝国の正体』(文藝春秋)など。
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