人間を「クスリの製造工場」に変えてしまう、未来のバイオベンチャーの実力
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人間の設計図mRNAをハッキングする技術
10年に米ボストンで創業したモデルナは、人間の体そのものを「クスリの製造工場」に変えてしまうテクノロジーを開発するベンチャーだ。
まるでサイエンス・フィクションの世界のように聞こえるが、その仕組みを理解すると、近い未来に実現するテクノロジーであるように思えてくる。まず人間のカラダをのぞいてみると、それぞれの細胞にはmRNA(メッセンジャーリボ核酸)という面白い物質がある。
このmRNAは、人間を作るための設計データが入っている。「こんな物質を作ってほしい、あんな物質をつくってほしい」という伝達係でもあり、生命体のメッセンジャー役を担っているわけだ。これが伝えてくれる設計データに基づいて、体のなかではさまざまな物質(タンパク質)が作られてゆき、それが組み合わさって人間などの生命体を作り上げている。
では、それを「ハッキング」したら、何が起こるのか? mRNAのコンテンツを自由自在に書き換えて、それを人間に注入したら、思い通りの物質を作らせることが理屈としては可能になる。まるでコンピュータでプログラミングをするかのように、そこに含まれているコンテンツを作ってしまおう。これが、モデルナのテクノロジーの根本にある理屈だ。
「ちょっと左腕が痛くなったけど、なんのショックもまだ感じないね」
シアトル在住のイアン・ヘイドンさんは、この未来のワクチンの臨床試験に参加している1人だ。さる4月8日にはクリニックを訪れて、モデルナが開発中の新型コロナ用のワクチンを注射している。
彼の体内には、いわばウイルスそのものではなくて、ウイルスの「データ」が注入されたことになる。そして願わくば、体内ではそのデータに従ってウイルスの一部が作られ、免疫が作られることになる。このやり方がもし成功すれば、お金のかかる巨大な生産ラインも、気の遠くなるようなウイルスの培養作業なども、すべて過去の遺物になってしまうかもしれない。
「mRNAは、私たちのカラダをワクチン工場にしてしまう。いま私がもっとも、ワクワクしているアプローチだ」
かのビル・ゲイツ氏がそのように称賛するのも、世界的なパンデミックに対して、このmRNAを使ったワクチンがもっともスピーディに対応できるからだ。そしてモデルナは、わずか42日間で新型コロナに対するワクチンを作り上げて、臨床試験を始めているのだ。
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