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日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 中島岳志「選挙に行こう」だけでは意味がない

「選挙に行こう」だけでは意味がない 中島岳志が考える政治の本質

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 2020年、コロナ禍によって世界中が大混乱に陥る中、日本では7年8カ月続いた安倍晋三政権から菅義偉政権へと移行した。だが、発足当初の9月には65%あまりを獲得していたその支持率は、GO TOトラベルをはじめとする各種コロナ対策の不手際などによって、4カ月で半減。混迷を極める永田町の様子を見ていると「政治」に対して絶望的な気持ちになってくる。

 そんな中、政治学者の中島岳志氏は、自身初となる入門書『自分ごとの政治学』(NHK出版)を上梓した。わずか2時間あまりで読了できる本書には、中島氏の考える「政治の基本」が凝縮されている。

 これまで『報道ステーション』(テレビ朝日)でコメンテーターを務め、『自民党 価値とリスクのマトリクス』(スタンドブックス)を執筆するなど、積極的に政局についての発言を行ってきた中島氏は「政治」の根本をどのように考えているのだろうか?

後編「野党の停滞と、言葉が死んでる総理大臣 中島岳志が見る2021年衆院選の行方」

ガンディーを通して見える「政治」の本質

──2020年末に出版された『自分ごとの政治学』(NHK出版)は、これまで様々な側面から政治について発言してきた中島さんにとって、初の政治入門書になりますね。

中島:実は、これまでにも入門書を書いてほしいという依頼はあったんですが、全部断ってきたんです。その理由は、僕が考える「政治」と世の中が考える「政治」との間にギャップがあったからでした。

 この本には、他の入門書に書かれているような選挙制度や民主主義のシステムなど、政治の基礎的な知識についての記述はありません。その代わりに書いているのが、僕が「政治」だと考える本質的な事例です。インド独立運動の父と言われるマハトマ・ガンディーが、イスラーム教徒とヒンドゥー教徒との紛争解決のために断食を行ったり、イギリスの植民地政策に対抗するために海岸まで歩いたこと。そして、民主主義が生者によるシステムであるのに対して、立憲主義が死者を含んだ人々のシステムであるということ。そのような、政治学の教科書には載らないことばかりを書いているんです。

──本書の冒頭には、政治とは「簡単には分かり合えない多様な他者とともに、なんとか社会を続けていく方法の模索」と、中島さんが考える政治の定義が掲げられていますね。

中島:そもそも、政治がなぜ必要なのかといえば、人と人がわかりあえないからです。僕自身、毎日顔を合わせている家族の心の中だって、よくわからない部分がある。他者とは、そう簡単にわかりあえないんです。

 そんなわかりあえない他者と同じ社会で暮らしながら、それぞれが幸福を追求するための調整役が政治の本質です。そして、そのための方法は近代ヨーロッパが生み出してきた選挙制度をはじめとする政治システムだけではない。そこで、システムの話だけではなく、ガンディーや死者といった話が必要になってくるんです。

──しかし、そもそも宗教と政治とは全く別のジャンルの問題ですよね?

中島:いえ。近代社会は合理主義の範疇でシステムを構築してきたため、宗教や死者といった存在を排除してきましたが、そもそも「政治」が、人間が普遍的に営んできたものであるならば重なる部分があるはずでしょう。

 本書の中で描いたガンディーは、多様性を重視しながら、ヒンドゥーでもムスリムでも、あらゆる宗教を認め合おうとした人でした。けれども、宗教を超えて認め合うためには「土台」が必要になる。そこで、彼は断食をすることによってヒンドゥーにもムスリムにも共有できる根源的な宗教心を引き出し、意見の対立を調整しようとしたんです。

──断食によって「政治」をした、と。

中島:これまでのように宗教と政治とを切り離して考えると、そんなガンディーの発想は「政治」の問題ではなく、ガンディーというカリスマの偉人伝でしかなくなってしまう。しかし、僕は政治という構造の中に、ガンディーの発想が使えるのではないかと考えているんです。

──しかし、宗教と政治を結びつける発想は、前近代へと逆戻りすることを意味するのではないでしょうか?

中島:いえ、そうではありません。そもそも、合理主義が追求される近代社会において、宗教は「個人の心」の問題であり、その力は弱められていくと考えてきました。けれども、今、実際に起こっているのは真逆の事象です。日本でも、20世紀末にオウム真理教のような教団が生まれ、地下鉄サリン事件で日本中にショックを与えたにもかかわらず、数年後にはスピリチュアルブームが起こっています。国外に目を移せば、21世紀になってもイスラム過激派が勢いを増していますよね。世界各地で宗教復興といわれる現象が見られています。宗教性は衰退せずに、むしろ活発化していったんです。

 いったい、その意味をどのように見出したらいいのでしょうか? もしかしたら、政治の本質は西洋の政治システムではなく、東洋のような宗教と政治が混在しているあり方なのかもしれない。その象徴として、今回の本ではガンディーに多くの記述を割いたんです。

──では、これまでの政治システムが前提としてきた「政教分離」との兼ね合いは?

中島:「政」と「教」がそれぞれ何を意味しているのかを考えなければならないと思います。特定の行政が特定の教団と結びついて政治を行うのは、多様性の抑圧や、特定団体に対する利益配分につながるために避けなければなりません。しかし、そもそも今の政治システムも宗教と切り分けることはできないでしょう。

 もしも政治と宗教全般を切り分けたら、国家による慰霊祭をすることはできません。日本であれば天皇制も維持できないし、政治家による伊勢神宮への公的な参拝もできなくなります。

 ガンディーの場合も、特定の教団が政治を行うべきであるとは言っていません。その代わり、ヒンドゥー教徒でもイスラーム教徒でも共有できるような深い意味での宗教心と政治を結びつけました。彼が断食によってやせ細っていく姿は、人々の内面に宗教的な感情を湧き上がらせます。そうして、人々に考えさせたり、行動を引き出していったんです。

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