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日刊サイゾー トップ > 社会  > 「緊急避妊薬」議論のゆくえ

医師会は明確な理由なく「時期尚早」で煙に巻き…政府「緊急避妊薬」薬局販売検討も中絶利権に群がる医師界の反対

医師会がすぐ反対した理由

 おさらいまでに、一般的にピル(混合ピル)とは卵胞ホルモンである「エストロゲン」と黄体ホルモン「プロゲステロン」という2種類の女性ホルモンを配合した薬剤だと定義されている。予期せぬ妊娠を防ぐ避妊だけでなく、「月経痛の軽減」や「子宮内膜症・子宮体ガンの予防」など、女性特有の身体的悩みを改善してくれる効果がある。ピルは、配合される卵胞ホルモンの量によって「低用量ピル」「中用量ピル」などに区分される。またその種類として、性行為後に避妊を行うためのアフターピル、月経の開始日をコントロールするための「月経移動ピル」などがある。

「アフターピルはホルモン剤。そのため副作用はゼロではありません。しかし、望まぬ妊娠や人工妊娠中絶などによる、女性の身体への影響と天秤にかけた際、そのリスクは著しく低いと断言できます。米国や欧州、また東南アジア各国などの多くの国では、低用量ピルやアフターピルが薬局やスーパーのドラッグストアで市販化されていて、手軽に入手できる環境が整っています」(山本氏)

 市販化が進む海外各国では、アフターピルの商品数も豊富で価格も安い。各国の所得差・物価差を念頭に置いたとしても、日本の感覚でおよそ数百円程度の負担で入手することができる。一方、日本ではアフターピルの種類が少ない上に値段も高く、医師の処方が必須だ。仮に服用しようとすると、女性は決して少なくない時間的・経済的負担を強いられる。

 なお、日本で認可されているアフターピル「ノルレボ錠」は1錠1万5000円前後。2019年3月には、ジェネリック医薬品である「レボノルゲストレル錠」が発売開始されたが、6500円~9000円程度とまだまだ高額だ。一方、米国、ドイツ、カナダなどでは、おおよそ1500円から2500円で販売されているという。アフターピルを含め避妊はすべて無料(英国)、または未成年には無料で提供される(ドイツ、フランス)というようなケースもある。

 日本の医師会などの業界団体はこれまで、「(店頭販売するとしても)薬剤師はピルの話はチンプンカンプン」「性教育を優先すべき」「日本では誰も買わない」「犯罪を助長する」「時期尚早」というような、あまり理由と呼べない理由で市販化を断固反対してきた。が、これが利権とお金のためというのはもはや“公然の秘密”のようになっている。

 例えば、診察や処方なしにピルが買えるようになれば、窓口としての病院の収入源は当然のごとく減ることになる。アフターピルは1万6000円程で販売されているが、現在は初診料やピルの原価を差し引いた分が病院の収益となる仕組みだ。市販化され価格が安くなることは、医療業界団体にとっては容認しがたいことなのである。

 さらに言えば、少子化が進む中、日本の産婦人科医にとって「人工妊娠中絶」の費用も貴重な収入源となっている。日本の人工妊娠中絶は年間で16~7万件。その費用は患者の自費負担で、15~30万円が相場。ざっと計算してみても、240~510億円ほどの産業規模となる。アフターピルが普及すれば、人工中絶を収益源にしている病院や医師が困ってしまう。後者はタブー感が強くあまり言及されることはないが、反対する理由としてはそう説明されたほうがまだ腑に落ちる。

「経済的な理由と併せて政治的な理由もあると思います。医師の中にもアフターピルがより普及することをよしとする人は大勢います。しかし、日本はまだまだ避妊やピルに関して保守的な考え方が蔓延している社会。普及に賛成してしまうと医師会などの主要メンバーに選ばれなくなるというような懸念から、表立って意見が言えないという人も少なからずいるはずです」(山本氏)

 実際、業界関係者に話を聞いてみると、アフターピルを手軽に買えるようにすべきという産婦人科医も実は多い。これは女性が受ける身体的・精神的苦痛およびリスクについてよく理解しているからだ。一方で、それらを知りながらも業界団体内部で反対の声を上げ続ける産婦人科医もいるというのが現状だ。

 ちなみに、医療業界団体が連呼する「時期尚早」というロジックは、どうやら目新しいものではないらしい。大手薬局に勤める薬剤師A氏(男性30代)は言う。

「医師の処方箋が必要な薬を市販化しようとすると、医師会は多くのケースで反対します。これは、緊急避妊薬に限りません。権利、すなわちお金ですので。理由に苦しくなってくると『(解禁には)時期尚早』で押し切ろうとすることも、結構ある話。反対する合理的な理由があまりないのでしょう」

 A氏はまた「薬剤師はピルの話はチンプンカンプン」という医師会の主張について、個人差はあれど、「アフターピルが市販化されるようになれば、薬剤師は他の新薬同様に学ぶはず。メーカーなどを通じて日常的に必要な情報は集めています」と業界内の常識を説明してくれた。傍から見ると薬剤師の人々に対して大分失礼な話だと思うのだが、当のA氏は医師会の“マウンティング”はよくある話といたって冷静だ。

「アフターピルに関してはおそらく、商品の説明と同時に、仮に避妊に失敗した際に病院に行くように促すとか、アフターフォローありきで市販化議論が進むと思います。確かに命にかかわることなので、万全の体制を整えた上で女性の方々がアプローチしやすくなればいいですね」(A氏)

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