出所した元ヤクザは不寛容な社会でどう生きる?西川美和監督の社会派ドラマ『すばらしき世界』
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社会と繋がりが持てることの喜び
劇中の三上も、真っ直ぐすぎる性格ゆえに堪え性がない。自分で自分を追い込んでしまい、自暴自棄に陥ってしまう。刑務所内では三上が暴走すれば刑務官たちが取り押さえたが、街では感情を爆発させることも許されない。子どもの頃に別れた優しかったお母さんに、もう一度会いたい。母親の面影を求め、さすらう三上。まるで体の大きな少年のようだ。
孤独な心を抱えた三上に、近所のスーパーマーケットの店長・松本(六角精児)や三上の母親の消息を追っていた津乃田らが手を差し伸べる。家族のいない三上には、津乃田たちが差し伸べた手がとても温かく感じられた。また、この映画を観ている我々も、観客の目線に近い津乃田らを通して、社会からはみ出してしまいがちな三上の揺れ動く心情に触れることになる。
映画の後半、三上はソーシャルワーカーの井口たちの協力もあって、介護施設で働き始める。獄中生活が長く、几帳面さが身についている三上の性格が生かせる職場だった。「シャブを打ったみたいに、気持ちいい」。真っ当な社会人として、社会に繋がりが持てることを三上は大いに喜ぶ。
その日の仕事を終えた三上は、職場でもらったコスモスの花束を抱えてアパートへと戻る。コスモスには「美しい」という意味があり、古代ギリシャ人が美しく輝く星空をコスモスと呼んだことがその語源となっている。イノセントな心を持つ三上には、風に揺れるコスモスの花々がとても美しく感じられたに違いない。
世界はままならない。でも、そんな不完全な世界を、三上は懸命に愛そうとする。怒りや憎しみではなく、愛する気持ちが世界を変えていく。日の当たらない場所からようやく出てきた三上は、大切なことを我々に教えてくれる。
『すばらしき世界』
原案/佐木隆三 監督・脚本/西川美和
出演/役所広司、仲野太賀、六角精児、北村有起哉、白竜、キムラ緑子、長澤まさみ、安田成美、梶芽衣子、橋爪功
配給/ワーナー・ブラザース映画
(c)佐木隆三/2021「すばらしき世界」製作委員会
https://wwws.warnerbros.co.jp/subarashikisekai/
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