出所した元ヤクザは不寛容な社会でどう生きる?西川美和監督の社会派ドラマ『すばらしき世界』
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生きている人間を、白か黒かに判別することはまず不可能だ。人間は白と黒との微妙なグラデーションの狭間を生きている。その人が置かれている状況や見ている側の心情によって、白寄りにも黒寄りにもグラデーションの加減は大きく変わって映る。西川美和監督は、そんなグラデーションがかった世界で右往左往する人間臭い人たちを、『ゆれる』(06)や『ディア・ドクター』(09)などで描いてきた。役所広司を主演に迎えた『すばらしき世界』も、白でも黒でもない存在に対して不寛容な現代社会に一石を投じる社会派ドラマとなっている。
これまでオリジナル脚本にこだわってきた西川監督だが、今回は今村昌平監督が1979年に映画化したことで有名な犯罪小説『復讐するは我にあり』で知られる、作家・佐木隆三のノンフィクション小説『身分帳』(講談社)をベースにしている。実在の人物をモデルにした『身分帳』が出版されたのは1990年。まだ暴対法も、暴力団排除条例も施行されていなかった時代だ。西川監督は現代のドラマにうまくアレンジすることで、観客にとってより身近な問題として提起してみせている。
真っ白な雪で覆われた北海道旭川刑務所を、三上(役所広司)が出所するシーンから物語は始まる。三上は日本刀を持って襲ってきた若いヤクザを返り討ちにしたことから、殺人の罪を問われ、13年にわたる刑期を終えたところだった。幼い頃に母親と生き別れ、ヤクザものとして生きてきた。何度も入所経験し、人生の半分を獄中で過ごした。肩には若い頃に入れた刺青があるが、途中で収監されたために色は入っていない。三上の立場のハンパさを物語っている。
久々の外の世界は、うれしくもあり、不安もある。弁護士の庄司(橋爪功)とその妻・敦子(梶芽衣子)が身元引き受け人となり、東京で社会復帰を目指すことになる。敦子が用意したスキヤキを口にした三上は、思わず涙ぐむ。獄中生活が長かった三上だが、中身は少年のように純粋な男だった。
安アパートでのひとり暮らしを始めた三上は、ソーシャルワーカーの井口(北村有起哉)のもとに通い、就職先を探すことに。だが、刑務所にいた間に失効していた運転免許証の再交付は認められず、就職活動も思うように進まない。そんな三上の悪戦苦闘ぶりを、テレビ業界のプロデューサー・吉澤(長澤まさみ)と元ディレクターの津乃田(仲野太賀)はドキュメンタリー番組にしようとする。
テレビに出演すれば、母親の消息がつかめるかもしれない。三上はテレビ出演を快諾。津乃田がカメラを回す前で、三上はオヤジ狩りをしていたチンピラ2人を血祭りにする。チンピラをボコボコにする三上は、普段とは別人のように生き生きとしていた。三上のもうひとつの顔を見てしまった津乃田は怖くなり、カメラを投げ出してしまう。三上の表面的な部分しか見ていなかった津乃田は、そのまま逃げ出してしまった。
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