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「大麻の茎や種から抽出」と謳うが…美容&健康業界で盛り上がる大麻成分CBDのグレーゾーン

CBDオイルは医薬品ではない

 このような盛り上がりの中でCBDは、いわば「ハイになることのない体にいい大麻」として受容されているわけだが、実際のところ医学的にはどんな効果があるのか? オンライン相談にも対応した早期からの緩和ケアクリニックの院長で、2000人以上のがん患者の症状緩和に医療用麻薬を処方したことがある大津秀一氏は、こう解説する。

「医学的には、小児期に発症する難治性のてんかんであるレノックス・ガストー症候群や、乳幼児期に発症する同じく難治性てんかんのドラベ症候群に対して効果があることが確認され、実際にアメリカではCBDが配合された薬が医薬品として承認されています。このようにCBDの効果が期待されている病気もありますが、ほかの病気に関しては現状、それ以外にも適当な薬があるため、日本の医療においてあえてCBDを治験し導入させようという方向にはなっていません。潰瘍性大腸炎、クローン病など炎症性腸疾患の治療に対しても効果の可能性が指摘されていますが、科学的根拠が強い研究が十分ではないんです。ただ、不安神経症や慢性の神経障害性疼痛などに関して効果があるかもしれないと研究が続けられており、今後は証明されるものが出てくるかもしれません。私としては現段階で処方を考えていませんが、研究が蓄積されれば、日本でも医薬品として実用化される余地はあるでしょう」

 オーガニックショップなどで販売されているCBDの化粧品やオイルは、決して“薬”ではないのだ。

「『不安を鎮める』『不眠に効果がある』と謳って販売されることもあるようですが、医学的にはデータの集積が十分でない。『既存の睡眠導入剤や抗不安薬は依存をきたすので、CBDのほうが安全』という声もあるかもしれませんが、軽い症状なら投薬以外にも生活習慣の改善や心理療法などがある。また、CBDも副作用を起こし得ますし、ほかの薬と相互作用もあり、注意は必要です」

 CBD製品は今のところ、その効果を過信することなく、慎重に判断したほうがよさそうだ。

販売停止になったCBD製品の実態

「大麻の茎や種から抽出」と謳うが…美容&健康業界で盛り上がる大麻成分CBDのグレーゾーンの画像3
リキッドやワックスなどをヴェポライザーで気化させて摂取するCBD製品も日本で流通している。(写真/Ikki Fukuda)

 とはいえ、日本でもCBDへの注目は高まっており、その市場が徐々に形成されつつあるようだが、CBD製品の輸入業者A氏はこう語る。

「実は、日本におけるCBD製品の扱いについてはグレーな部分が大きい。というのも、『茎や種から抽出した合法のCBD』と謳われている製品が多いですが、DEA(アメリカ麻薬取締局)が『理論上は大麻の茎と種から微量のCBDは抽出できるが、それを商品にするのは現実的ではない』といった見解を公式に発表しているんです」

 そうだとすれば、バッズから抽出したCBDを使ったものや、あるいはCBDがまったく入っていないインチキ商品も日本で出回っているということなのか――。実際、世界40カ国で展開している米国のCBDオイル・ブランド大手、エリクシノールの日本法人が販売しているCBD製品のうち、3種類の製品から微量のTHCが検出され、20年2月にそれらは販売停止になっている。同社では、19年10月にも茎と種子以外の部分を原材料として使用していた可能性が示唆され、一時販売を停止している。

 厚生労働省が通達している「CBDオイル等のCBD製品の輸入を検討されている方へ」という書類には、「大麻草の成熟した茎又は種子以外の部位(葉、花穂、枝、根等)から抽出・製造されたCBD製品は、『大麻』に該当します」「大麻草から抽出・製造されたかを問わず、大麻草由来の成分であるテトラヒドロカンナビノール(THC)を含有するCBD製品は、『大麻』に該当しないことが確認できないので、原則として輸入できません」とある。そして、大麻の輸出入、栽培、所持、譲受・譲渡などを行うと、栽培/輸出入で懲役7年以下(営利は懲役10年以下+300万円以下の罰金)、所持/譲渡・譲受で懲役5年以下(営利は懲役7年以下+200万円以下の罰金)と厳しい罰則があることが明記されている。

 また、大麻由来のCBDを使った製品を輸入する際には、あらかじめ地方厚生局麻薬取締部に、「大麻草の成熟した茎又は種子から抽出・製造されたCBD製品であること」を証明する内容の文書、輸入しようとするCBD製品の検査結果が記載された分析書、CBDの原材料と製造工程の写真という3点を提出し、大麻取締法の“大麻”に該当するか否かの判断を仰がなければならない。別の輸入業者B氏は、こう述べる。

「輸入業者は、扱うCBD製品が茎と種以外から抽出されたものだと知っていて嘘をついているのか、もしくは海外の仲介業者に騙されてわかっていないのか、定かではありません。輸入業者も小売店も、これまで大麻を扱ったことがない人が多いから、よく理解していない可能性が高い。海外の製造業者に『CBDの原料の写真を撮って送ってほしい』といっても、写真なんていくらでもごまかせますしね」

 しかし、他国の製造業者側から「茎と種から抽出したCBDだ」と言われれば、輸入業者も厚労省も検証しようがない。そのため、グレーゾーンの製品が数多く出回っているのではないかとみられているのだ。

 一方で、完全合法にこだわったCBD製品もある。「CBD POINT CREAM」を8月に発売したウェルネス・ブランド「WALALA(ワララ)」を運営するバランスド代表取締役の柴田マイケル空也氏は、次のように語る。

「CBDについて、数多くの大麻生産者に問い合わせ、また膨大な大麻関連の論文を読み込みましたが、やはり茎や種から抽出したCBDで製品化することは実質的に不可能だという結論になりました。そこでたどりついたのが、化学合成のCBD。これなら大麻取締法には抵触しません。アメリカでは大麻由来のCBDが認められていますが、ヨーロッパには『葉などから抽出した成分は使用禁止』という日本と似ている法律がある国もあるため、化学合成CBDのニーズがある。こうしてチェコでCBDの化学合成を手がけている会社を見つけ、提携することにし、『CBD POINT CREAM』を開発しました。化学合成はビタミン剤や化粧品原料でも一般的に使われる製法ですし、化学合成CBDも50年以上前から研究されているものなんです」

 原料のCBDを輸入し、日本でほかの成分と配合して製造しているこの製品は、肌の炎症を修復する力をサポートするほか、顎、首、肩に溜めているストレスを軽減する効果が期待されている。ただし、化学合成CBDは食品としての輸入は検疫や税関の関係でまだハードルが高く、11月初頭時点では化粧品原料としての輸入のみが可能となっているようだ。加えて、化学合成の過程で微量のTHCが生成されることがあるため、今のところ日本では製造が許されていない。

「嘘はつきたくないので、弊社は大麻由来のCBDは一度も輸入したことはありません。製品には化学合成のCBDを使用した証明書を付けて、小売店に卸していますね。今、アメリカのCBD化粧品市場は約253億円規模で、2023年までに1500億円まで成長するといわれていますが、日本の市場もさらに大きくなることを期待しています。しかし、THC成分が検出された、製品が回収になった、といったことがたびたび起こると、CBD製品全体の信頼が落ちてしまう。消費者のためにも、まずはクリーンなCBD製品を流通させて市場を成長させることが重要でしょう」(柴田氏)

 コンプライアンスの観点からすれば、大麻取締法や麻薬及び向精神薬取締法に抵触するCBD製品や関連業者は淘汰されるべきだろう。だが、よくよく考えると、こんな疑問も湧いてくる。例えば、大麻の花穂からTHCではなくCBDだけを抽出したとしてもダメなのか。あるいは、アメリカでは健康効果も期待されているTHCは本当に“悪い”ものなのか――。つまり、現行の法律は矛盾を孕み、時流に即していない部分があるからこそ、日本のCBD市場はいびつな状況が生じているようにもみえるのだ。

(文/月刊サイゾー編集部)

最終更新:2021/02/03 09:00
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