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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 映画  > 『ヤクザと家族』で感じた「舞台裏の輝き」

映画『ヤクザと家族 The Family』監修者が感じた「舞台裏の輝き」「役割を追求する力」

2時間20分の上映時間に込められた気迫

 当初、『ヤクザと家族』の監修を私が務める前、まず都内のホテルでフクを含めた3人の助監督から取材を受けることになった。その時点では、作品テーマこそ固まっていたものの、まだシナリオも完成していなかった。だが、3人の助監督の熱心さにいつしか惹き寄せられ、彼らと共に作品作りに真剣に向き合っている自分がいたのだった。そして取材が終わった時には、私も惜しまず協力させてもらおうと考えていた。そのタイミングで、監修のオファーを正式にいただくことになったのだった。

 作品の内容を私が語るのは、なんだか野暮ったい。作品名で検索してくれれば、そうした情報は溢れているだろう。作品をどう批評するのかについても、劇場に足を運んでくれた人々がそれぞれの感性で語ってくれればいいことだ。ここで描かれたヤクザという生き方を称賛するわけでも肯定するわけでもなく、それぞれが、さまざまな想いを感じて、鑑賞後の余韻に浸ってほしい。

 ただ、私がここで言いたいのは、役者たちのように表で輝く人たちがいれば、その舞台の裏で一生懸命に汗を流している人たちがいることも感じ取ってほしいということだ。監督、脚本家、助監督、カメラマン、音声、照明……そんな彼らも、作品が劇場で公開されるその瞬間のために、すべてを賭ける気迫を持って生きているのだ。

 そうしたさまざまな裏方の人たちがいることを知っていたとしても、彼らがどんな情熱をもって、どんな苦労をして、どんな喜びを求めて、作品作りと向き合っているかは、世間には伝わりにくいかもしれない。私自身もこの作品に携わるまで、そんなことを考えたこともなかった。そういう一人ひとりがいなければ、映画という作品、物語は完成しないということを、私はこの作品を通して学ぶことができたのだ。

 撮影現場は決して華やかなものはなかった。監督をはじめ、豪華なキャストたちに至るまで、みんな質素なホテルに泊まりこみ、連日、撮影にあたるのだ。約2時間20分という上映時間のために、身を削り、精魂を込めるのである。自分にとっては最初はそれが辛くて辛くて仕方なかった。だが、次第にそれが性に合ってきたのだ。

 そもそも私が生業にしている「書く」という仕事は、孤独で地道な作業の積み重ねであり、華やかさなんてものとはほど遠い。それが作品を生み出すという苦しみであり、その先にある、自分の本が書店の本棚に並ぶ瞬間のワクワクする高揚感のためだけに、さまざまなことを犠牲にして書き続けている。それと同じものが、映画製作という現場にも存在していた。その時からだった。私の中で認めてもらうべきは、世間ではなく、自分自身だと考えるようになったのは。自分が納得できる仕事を徹底的に追求するのだと。

『ヤクザと家族』が与えてくれたもの

 縁の下の力持ちーー現場でフクが走り回る姿を見て、いつしか私は、その言葉を脳裏にめぐらせ、どうせだったら私も、日は当たらぬも欠かせない、そういう場所で自分の能力を発揮したいと考えるようになっていた。

 そこから私は、それまでのように、無理してまでメディアに露出することをやめようと考えたのだった。

 人には、役割というものが存在する。それはどんな組織でもコミニティでもそうだろう。私には私にしかない世界観があって、それを文字で表現し、いつか自分で自分自身を認めてやれる存在になれれば良いなと思っている。諦めるのは簡単である。だけど25歳の時にペンを握り、今年で20年目。ずっと書き続け、この映画に携わることができたお陰で、今はハリウッドの仕事に携わることもできている。

 それはやっぱりフクと2人の助監督。そして、わたしの未来を広げてくれた藤井道人という監督のお陰だったといえるだろう。

 『ヤクザと家族』で主演を務める綾野剛さんや舘ひろしさんの台詞の中には、私が考えたものもある。それは金銭には変えられない、物書きとして最高な思い出として、大切に私の中に閉まってある。

 辛くても苦しくても、がんばっていれば報われる。そう私に感じさせてくれたのが、『ヤクザと家族』の現場だった。

 ここでは『ヤクザと家族』の内容には触れないと書いたが、あえて一言で表すならば、「生きていく」ということだろう。人は生きていくからこそ、時代の流れに躊躇し、戸惑い傷つき、人を愛す。生きていくということに、純粋に、そして、一生懸命に向き合った一人のヤクザの物語が、2時間20分の作品に詰め込められている。

 まさにこの作品は短い時間で、観た人の考え方、さらに感受性を変える力をもっているのではないか。私としては、それを信じ、願いたい。

■『ヤクザと家族 The Family』公式サイト
https://www.yakuzatokazoku.com/

最終更新:2021/01/29 09:30
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