お蔵入りしていた酒井法子の復帰作『空蝉の森』帰ってきた女は、中身が異なる赤の他人だった!?
#映画 #パンドラ映画館
帰ってきた妻に対する恐怖心、猜疑心
血の繋がりのある親子関係とは異なり、夫婦は直接的な利害関係によって結ばれている一種のパートナーシップだ。『ジャック・サマースビー』の妻(ジョディ・フォスター)は、かつては暴力的だった夫(リチャード・ギア)が別人のように優しくなったことを喜んだ。『天国と地獄の美女』の妻(叶和貴子)は、締まり屋だった夫(伊東四朗)が全財産を使ってこの世の楽園「パノラマ島」の建設を始めたことに興味を抱く。夫婦はもともとは赤の他人同士なので、中身が変わっても彼女たちはさほど問題にしない。むしろ、夫が変わったことを好意的に受け止める。新しい夫が与える刺激が、よほど心地よいのだろう。
だが夫である昭彦は、帰ってきた結子が妻であることを頑なに認めようとしない。結子のことを気持ち悪がり、別の寝室で寝るようになる。結子が作った手料理も、「毒が入っているかもしれない」と口にしようとしない。帰ってきた妻に対する恐怖心、猜疑心で昭彦の心の中は占められている。映画やTVドラマの中の妻たちが夫の変化を受け入れるのに対し、夫は妻が変化することを恐れるものなのかもしれない。
ようやく自宅に帰ってきたものの、結子には居場所がない。それでも、この家にしがみつこうとする。他に行き場所がないからだ。所在なさげな薄幸系ヒロインを、芸能界に復帰して間もない酒井法子が当時の状況そのままに演じている。アイドル時代とは違った、やつれた姿は影のある美しさを感じさせる。昭彦はなぜ手を出さないのかと不思議に思うほどの妖艶さが漂う。
本作を撮ったのは、壇蜜主演の官能映画『私の奴隷になりなさい』(12)を大ヒットさせた亀井亨監督。ホラー小説界の鬼才・平山夢明の短編小説を、『無垢の祈り』(15)と して自主映画化したことでも知られる。『私の奴隷になりなさい』は女王さまと奴隷というSM関係を結ぶことで、ようやく他者と繋がることができる現代人の孤独さを浮き彫りにしていた。『無垢の祈り』は親から虐待されている幼女が、街で噂になっている連続殺人鬼に救済を求める哀しい物語だった。
亀井監督作品は“人間に対する不信感”がいつもテーマになっている。『ねこタクシー』(10)などの動物映画も数多く撮っているが、それは動物のほうが人間よりも裏切ることが少ないという理由からだ。
サイゾー人気記事ランキングすべて見る
イチオシ記事