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日刊サイゾー トップ > 連載・コラム  > 米国「水素トラック」誕生のはずが詐欺!?

アメリカでついに水素で動くトラック誕生!……のはずが詐欺スキャンダルへ!?

──あまりにも速すぎるデジタルテクノロジーの進化に、社会や法律、倫理が追いつかない現代。世界でさまざまなテクノロジーが生み出され、デジタルトランスフォーメーションが進行している。果たしてそこは、ハイテクの楽園か、それともディストピアなのか……。(「月刊サイゾー」11月号より転載)

アメリカでついに水素で動くトラック誕生!……のはずが詐欺スキャンダルへ!?の画像1

 人の姿も、家もビルもない、果てしなく広がる土漠。地平線に広がる山々をバックにして、未来感あふれる大型トラックが、一本道を走り抜けてゆく──。

 これは2018年1月、米国のベンチャー企業である「ニコラ」が公開した映像だ。

 14年に創業したこのニコラは、今をときめく電気自動車(EV)や、さらに水素で走ることができる未来のトラックを造っているという触れ込みで、大きな注目を集めてきたスタートアップだ。

 創業者のトレバー・ミルトンは、その明るい未来を語り続けてきた。

「次の10年で、フェラーリのような自己表現をするための車以外は、すべて電気自動車になる。電気や水素より優れたものはないし、ニコラはその両方でリーダーになる」

 そして環境に優しいトラックたちと、全米を網羅する充電ステーションのネットワークを築き上げると約束してきたのだ。2020年6月には、米ナスダック市場に上場。株価は上がり続け、一時は時価総額が3兆円を超えるまでに膨らんだ。

 まだ1台も出荷する前から、アメリカを代表するフォードよりも価値のあるベンチャーに躍り出たわけだ。

 さらにまた米自動車大手のゼネラル・モーターズから、約2000億円の出資を取り付けたと発表(9月8日)。歴史的な自動車メーカーと手を組んだというニュースにより、いよいよ未来がやってくるとの印象を与えた。

 実際に水素で動く商用トラックは、事前注文だけで1万4000台に上っていたという。

 ところが、その直後に「爆弾」が投下されたのだ。

 米国の調査会社のヒンデンブルグ・リサーチが、このニコラの内部事情についてのレポートを発表して、彼らが造っているトラックがほとんど「ハリボテ」であると、事実上告発をしたのだ。

 レポートの真偽は細かく検証されていないが、そこで描かれているニコラの実態が、あまりにもずさんなため、一気にスキャンダルとして大炎上した。

 たとえば、冒頭に紹介したデモンストレーション映像。まるで水素で動いているかのようなトラックは、実は米国ユタ州にある長い坂道のてっぺんから、ただ空っぽの車体をコロコロと転がしたものだったのだ。

 ニコラ側は、この映像公開前から「すでに動く状態だった」と言っていただけに、あまりにもお粗末なトリックがバレて、大恥をかくことになった。

 また電気自動車のコアなパーツは、自社開発だと謳ってきたが、実際は他社メーカーの部品を取り寄せていたのではという疑惑も浮上している。

 当初は「(映像は)電動で自走しているとは、誰も言っていない」などと、苦し紛れの反論をしていたニコラだが、約10日後に創業者のミルトン氏は辞任。

 もはや詐欺事件のような展開をみせるニコラだが、この会社のいい加減さに加えて、ニコラが利用した「裏口上場」の仕組みにも注目が集まっている。

ニコラだけじゃなかった裏口上場のカラクリ

「米国では以前から、会社を“裏口上場”するためのスキームがありました。その仕組みが洗練されて、今年に入って大“ブーム”になっています」

 そう語るのは、シリコンバレーに住んでいるコンサルタントの渡辺千賀氏(ブルーシフト・グローバル・パートナーズ)だ。

 もともとは70年代、業績がふるわないゾンビ化した上場企業に、これからひと旗揚げるぞという未上場企業をわざと合併させて、事実上新しい上場企業をサクッとつくってしまう手法だ。

 もっとも大きなメリットは、上場のための時間とコストを省くことができること。まるで裏口入学のようなやり方で上場するため、バックドアリスティング(裏口上場)と呼ばれた。

 このやり方が洗練されたことで、このニコラも利用した、“SPAC”というスキームが米国で大流行しているのだ。

 やり方はいたってシンプルだ。一般的にはビジネスを育ててから、会社を上場させるというのが王道。しかし、SPACはまず「空き箱」となる会社を上場させ、集めた資金で、目ぼしい企業を買ってしまうという手法なのだ。

 本来なら、株式上場する企業は、そのビジネスの実態や将来の計画について、厳しいチェックを受けることになる。しかし、このSPACはそうした厳しいプロセスを省いて、お金を集めることができる。

「今年に入ってから、すでに130社以上がこのSPACを利用して上場しています。お金を集めたSPAC経営者たちが、何か目ぼしい買収先はないかと、競い合っているのです」(渡辺氏)

 いったんお金を集めて回り、原則2年以内に目ぼしいビジネス(買収先)を入手できなければ、解散して、出資金を返す仕組みになっている。

 そのためSPACの経営者たちは、なんとか筋の良いベンチャー企業を買収できないかと、血眼になって買収先を探しているのが実態だ。

 そんな「買い漁り」が加熱している中で、ベクトルQというSPACが買収をしたのが、詐欺疑惑で揺れているニコラだったのだ。

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