なぜ合法化が進むアメリカで“密造大麻”が流通?──THCリキッド市場が拡大! 日米マリファナ最新裏事情
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密造リキッドの爆発事故と貧者を蝕む合成大麻
一方、20代のミュージシャンは興味本位でTHCリキッドを試していたが、しばらく経ってフラワーに回帰した。
「フラワーって匂いもそうなんですが、ジョイントにする手間がかかったり、それを仲間と回し吸いしたり、肉体的なんですよ。コロナ禍ではひとりでヴェポライザーで吸っていたほうが安心なんでしょうが、ずっと閉じこもっていた反動かもしれませんね」
また、先ほどの広告代理店マンはここ最近、購入したTHCリキッドの品質が悪くなっているように感じるという。
「なんだかキマりが弱くなったんですよね。以前よりもアトマイザーの中の液体がサラサラしている気がするし。あとこの前、買ってきたものがなんか、液体がインクで色をつけたようなどぎつい黄色で。怖くてさすがにまだ吸っていないんですけど」
前出のドラッグ・ディーラーは、日本におけるTHCリキッドの最新状況について以下のように説明する。
「注目度が上がり、市場が広がっている中で粗悪な商品が出回り始めていると思います。薄いのなら良いほうで、ヒドいものだと含有されているのがTHCですらなかったり。日本で出回っているTHCリキッドは、ちゃんと商品として流通しているアメリカとは違って成分を確かめられないんですよ。フラワーだったら見た目で品質がわかるんですが。そしてそのわからなさは、売り手にとっては非常に都合がいいんですね」
それは2010年代前半の脱法ドラッグ・ブーム末期の問題を思い出させる。もともと“合法ハーブ”と呼ばれた同ドラッグは、マリファナの成分を模した合成カンナビノイドを含有したものだったが、法律とのいたちごっこを続ける中で、本来の成分とはまったく違うものになってしまった。臨床実験なども行われないため、吸ってみるまでどんな効果があるのかわからず、意識障害が続出。現在でも後遺症に苦しむ人は多い。ブラックボックスという意味では、日本におけるTHCリキッドも同じようになりつつあるのだ。
しかしそういった闇商品の問題は、実はアメリカにもある。前述したラッパー=ワカ・フロッカ・フレイムが見学したハッシュ・オイルの製造工場は合法で、高価な装置を使用しているが、近年、同国では安価なブタンガスを使ってオイルを抽出しようとした者が起こす爆発事故が相次いでいる。LAでマリファナ関連商品のデリバリー・サービスを合法的に行っている〈HERB〉のオーナー=ボビー・ヴェキオ氏が、非合法に製造されるハッシュ・オイルの問題について説明してくれた。
「我々の店舗で販売している商品はすべて、カビや溶剤の残留物など危険物質が混入していないかどうかラボで検査を受けています。一方、非合法で販売されているカンナビス商品には何が入っているかわからないという危険性があります」
それにしても、合法で安全なTHCリキッドを入手しやすいアメリカで、なぜ密造が行われるのだろうか。
「実はカンナビスが合法になったカリフォルニア州でも、70%の地域ではカンナビス・ビジネスを運営することが違法なのです。さらに合法に運営するにはさまざまな法規制があり、高い税金が課せられる。結果として商品の値段も高くなるため、どうしても非合法のマーケットが繁盛してしまうのです」
また、ニューヨークのマウントサイナイ医科大学精神科助教授で、同大学病院の精神科救急外来に勤務する精神科医の松木隆志氏は、同地でシンセティック・カンナビス(合成大麻)――日本でいうところの脱法ドラッグが再び勢力を増しているように感じるという。
「錯乱状態で搬送されてくる人の中に、合成大麻の影響だとみられる人が増えている印象を受けます」
日本と同じく、アメリカでも2000年代から“K2”や“スパイス”といった合成大麻が流行し、16年にはブルックリンで33人が集団搬送されるなど、問題は続いてきた。闇商品のハッシュ・オイルと同様、アメリカでなぜわざわざ劣悪なドラッグを使うのかと思ってしまうが、合成大麻は非常に安価で、貧者のドラッグという側面がある。松木氏はさらにコロナ禍が状況を悪化させたとみる。広く報道されているように、ニューヨークでは新型コロナウイルスによって累計1万人以上が死亡した。
「コロナ禍の初期は精神科救急外来は静かだったんです。そもそも死にそうな人にさえ救急車が行き届かないぐらいの状況だったので。それが状況が落ち着くにつれて、ストレスを訴えて受診する人が増えてきた。そして同時にドラッグ依存の問題も出てくる。失業者もホームレスも増えていますし、貧しい人は合成麻薬に向かったということなのでしょう」
マリファナ先進国のように思えるアメリカでさえ問題が山積なのだ。それが日本のアンダーグラウンドでモンスター化しないことを願わずにはいられない。
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