クローネンバーグ監督が描く変態夫婦の純愛物語! 交通事故に興奮する危険な映画『クラッシュ 4K』
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生と死の狭間が生み出す性的エネルギー
“変態王”ヴォーンはジェームズ・ディーンの死亡事故だけでなく、ハリウッドのセックスシンボルだった巨乳女優ジェーン・マンスフィールドの事故死も再現しようとしていた。「強烈な事故死を遂げた人間の放つ性的エネルギーは、人間の他のどんなエネルギーもかなわない」とヴォーンは狂った自論をせつせつと説く。狂った考えでも自信満々で語られると、思わずうなづいてしまう。信じる者がいることで、そこに異端の学説が誕生する。生と死のギリギリの狭間であるデッドゾーン、そこは今までに見たことのない快楽の花々が咲き乱れる涅槃の境地だと、ヴォーンとヴォーンを信仰するマニアたちは信じていた。
上海で育った少年期に日本軍の捕虜収容所生活を経験しているJ ・G・バラードが、小説『クラッシュ』を発表したのは1973年だった。だが、日本ではそれよりも早い1971~72年に、ヴォーンの行動理論によく似たスーパーヒーローが活躍していた。円谷プロが制作した特撮ドラマ『帰ってきたウルトラマン』(TBS系)だ。『帰ってきたウルトラマン』の主人公・郷秀樹は初代ウルトラマンやウルトラセブンのような変身アイテムは与えられていなかった。生身の人間である郷秀樹は巨大な怪獣に襲われるかビルの屋上から飛び降りるかし、生命の危険にさらされることで光の巨人へと変身を遂げた。
放送時は名前すら与えられなかった帰ってきたウルトラマンは、たそがれどきの夕陽が似合う、どこか屈折感のあるヒーローだった。円谷プロの創設者・円谷英二を亡くした喪失感こそが、帰ってきたウルトラマンの原動力だった。生と死の狭間に立つことで無敵のエネルギーを手に入れるメタリック調のヒーローに、当時の子どもたちは夢中になっていた。郷秀樹も光の巨人に変身する瞬間、やはり例えようのない快感を感じていたのだろうか。
話を『クラッシュ』に戻そう。ジェームズも妻のキャサリンも、ヴォーンたちと出会ったことで人生が大きく変わっていく。覚えたての新しいSMプレイを試すかのように、かつてヴォーンの愛車だったリンカーンに乗ったジェームズは、キャサリンが乗る車と高速道路で愛し合う。つまり、接触事故を繰り返す。手を繋いだまま、共に快楽地獄へと落ちていくジェームズとキャサリンだった。
カークラッシュマニアというド変態たちの生態を描いた『クラッシュ』だが、長年にわたって生活を共にしている夫婦が精神的にも肉体的にも次第に変化し、そのことをお互いに受け入れる純愛ストーリーにもなっている。物語の最後、ジェームズとキャサリンは傷だらけになりながらも、出会った頃の恋人同士のように新鮮な心持ちで向き合うことになる。クローネンバーグ監督が考える「理想の夫婦」像ではないだろうか。
『クラッシュ 4K無修正版』
監督・製作・脚本/デヴィッド・クローネンバーグ 原作/J ・G・バラード
出演/ジェームズ・スペイダー、ホリー・ハンター、イライアス・コティーズ、デボラ・カーラ・アンガー、ロザンナ・アークエット
配給/アンプラグド R18+ 1月29日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開
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