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日刊サイゾー トップ > ビジネス  > 展示会のバーチャル化は実現するのか

クロサカタツヤ×荒井秀和──日本人はバーチャルが苦手!? 世界中でデジタル化が進むなか「展示会」はどう進化するか

クロサカ ところが、スペインで毎年2月に開かれている「モバイルワールドコングレス」という国際展示会は、6月末に日時を変更してリアルでやると宣言しているんです。

荒井 うーん、グローバル規模の大きなイベントがそういう動きになると、結局バーチャルは終わってしまう気がします。

クロサカ そうすると、カンファレンスやセミナーはバーチャルに移行して、むしろ良かったということに気がついたのに、展示会は逆で「バーチャルは無理だ」と世界中が言い出して、展示会はデジタル時代に最後まで残るリアルなもののひとつになってしまう。そうなると、ソーシャルディスタンスや衛生対策などをきちんとやる必要があるので、コストが上昇して入場無料で展示会はできなくなるかもしれない。

荒井 私も、運営している技術系のイベントのひとつはオンラインからリアルに戻しました。それはスポンサーから「リアルでやってほしい」と強い希望があったから。

クロサカ うーん、そうですか。一方で、僕としては、バーチャル展示会にはもっとチャレンジしていかないといけないと思うんですよ。たとえ、簡単に答えが出ないとしても、まずはそのことを皆が理解したことは前進なわけですから。

荒井 だから、この1年間はとりあえず実験ですよ。先日、うちの会社の創立20周年記念パーティをオンラインでやったんですね。クロサカさんには、冒頭で挨拶をしていただきましたけど。

クロサカ あのパーティは、お世辞抜きですごいなと思ったんですよね。あれは、単なるカンファレンスでも、ウェビナーでもなかった。上手く言語化できないんですが……参加した人ならわかると思います。

荒井 バーチャルって基本的に参加者の一体感がないんですよね。同じカンファレンスでも、リアルで会場まで出かけて行って聞くのと、オンラインで自宅からポチッと押して見るのとでは、同じ内容でも本人の姿勢が違う。やっぱり会場に行くと、吸収しなきゃ、質問しなきゃと思うんですよ。そこが、リアルとバーチャルの違いが出るところ。だから、うちのイベントは、参加者が一体になって楽しめるように考えて、テレビ番組風に作った。それだと、バーチャルイベントでも多くの人が受け入れやすいんじゃないかと思って。

クロサカ なるほど。あれは視聴者参加型番組だったんですね。

荒井 参加者の一体感には、こだわりました。でも、そういうイベントはなかなかできないんですよ。例えば、バーチャルカンファレンスでいろいろ質問をしてもらいやすい仕掛けを考えるんですけど、なかなか手が上がらない。でも、参加者同士が雑談できるオンラインのミーティングルームでは結構活発に話しているんですよね。

クロサカ そこは、今まさに仕事として取り組んでいることで、悩ましい課題です。でも、一体感というのは、技術や仕組み、そして演出によってある程度作り出せるものがあるわけですよね。

荒井 そうですね。オンラインのカンファレンスをやると、背景映像の絵面についてよく質問されるんですよ。「どこに人が映りますか」とか「どんな見映えになりますか」とか。でも、そんなのあまり重要ではない。現場でどうにかなるから。そうじゃなくて、参加した人が楽しめるような話や仕掛けを準備しておけば、皆聞いてくれるんです。僕は、それを変えていきたいし、変わらないといけない。だから、しっかりした台本が必要だし、仕掛けのための準備もいるから、バーチャルはものすごく人手がかかるんです。配信会社や製作会社は、真剣にやるとこれから儲かると思いますよ。

クロサカ それこそが「ニューノーマル」ですよね。

【1】CEATEC 2020 ONLINE
2000年から開催されている、家電から電子機器、デジタルサービスやIT技術に関する企業等が出展する展示会。20年は新型コロナに備えて専用のウェブサイトにてコンテンツを掲載したり、セッションを配信したりするオンライン開催を行った。

【2】富岳
理化学研究所が開発し、富士通がハードウェア製造を担当した世界一の計算性能を持つスパコン(20年6月時点)。従来のスパコンよりも、ソフトウェア開発が容易なため、科学研究以外にもさまざまな分野に利用しやすいのが特徴。

<対談を終えて>
 荒井さんとの付き合いは、気がつけばもう20年近くになります。

 かつて私が勤めていた三菱総合研究所で、IPv6というインターネットの基盤技術の普及活動に取り組んでいた頃、アカデミックなテーマをイベントで柔らかく表現する達人がいるということで、いろいろご相談したのがきっかけです。私は社会人3年目くらいだったかと思いますが、お仕事をいろいろご一緒させていただき、本当に勉強になりました。

 しかし、そんな荒井さんを「ううむ、手強い」と唸らせたのが、コロナ禍です。イベントという、フィジカルそのものの取り組みにとって、そのフィジカルな接触を制限される「ソーシャル・ディスタンス」は、如何ともしがたいものだったと思います。

 そんな荒井さん率いるイーサイド社が、今年20周年を迎えられました。そこで、お祝いのパーティをやるというのです。日頃お世話になっているだけに、そもそも万難を排して参加するつもりでしたが、パーティをオンラインで開催すると聞いて、果たしてどう盛り上げるのだろうかと興味津々だったのも、正直なところです。

 結果は、大盛況。参加した多くの方が「あれは楽しかった」「オンラインであそこまでできるのはすごい」と言っていました。インターネット業界に強いイーサイドだけに、参加者の顔ぶれには、私の大学教員としてのボスである村井純教授(慶應義塾大学)や、WIDEプロジェクト代表の江崎浩教授(東京大学)といった、ネットにもイベントにも一家言ある猛者が、1人2人ではなくほぼ全員という状態だったのですが、お世辞抜きに「さすが」の一言でした。

 どうしてそんなに盛り上がったのか。その具体的な「秘密」は本文に書かれているので再読していただければと思います。ただもうひとつ対談を通じて印象に残ったのは、荒井さんが手の内をどんどん見せて、「こうやればいいんだよ、こうしないと楽しくないよ」ということを、気前よく教えてくれたことでした。

 ウェブ会議が定着するにつれて、逆に「どうすれば盛り上げられるのか」とお悩みの向きも増えていると思います。一方、サイバースペースで活気ある交流や取組ができるノウハウには、大きなニーズがあるはず。できれば隠しておきたい、と考えてもおかしくないところです。

 しかしそんなことを言っていたら、いつまでたっても抵抗感が残り、デジタルファーストは広がりません。むしろ、多くの人がチャレンジを余儀なくされているからこそ、その楽しみ方を広げていかないと、未来は訪れない……荒井さんのオープンな姿勢からは、そんな信念を感じました。

 日本に限らず世界中で、デジタルトランスフォーメーションが花盛りです。しかし、デジタル技術はどこまでいっても手段のひとつに過ぎません。そうした技術を用いて、人間が便利に楽しく毎日を過ごすという目的を達成するためには、やはり人間が人間をおもしろくさせる、という原点を忘れてはならないのでしょう。

荒井秀和(アライ ヒデカズ)
株式会社イーサイド代表取締役社長。日本大学経済学部卒業後、旅行代理店、広告代理店を経て、2000年にイーサイドを創業。インターネットの黎明期から情報通信技術関連の展示会やイベントの企画運営実施をしてきたほか、IT関連の団体や学会、産学官連携プロジェクトなどの事務局代行を数多く請け負っている。

クロサカタツヤ
1975年生まれ。株式会社 企(くわだて)代表取締役。三菱総合研究所にて情報通信事業のコンサルティングや政策立案のプロジェクトに従事。07年に独立、情報通信分野のコンサルティングを多く手掛ける。また16年より慶應義塾大学大学院特任准教授(ICT政策)を兼任。政府委員等を多数歴任。

 

最終更新:2021/01/20 09:00
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