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クロサカタツヤ×荒井秀和──日本人はバーチャルが苦手!? 世界中でデジタル化が進むなか「展示会」はどう進化するか

通信・放送、そしてIT業界で活躍する気鋭のコンサルタントが失われたマス・マーケットを探索し、新しいビジネスプランをご提案!

クロサカタツヤ×荒井秀和──日本人はバーチャルが苦手!? 世界中でデジタル化が進むなか「展示会」はどう進化するかの画像1
●Webセミナーの視聴経験(出典)/総務省「令和2年版 情報通信白書」掲載ディスコ キャリタスリサーチ(2020)より

──新型コロナの影響で東京五輪を始めとしてさまざまなイベントが、中止したり延期したりと多くの影響を受けている。なかでも展示会は、もともと東京五輪のために東京ビッグサイトが長期使用不能となっていたところに、さらなる延期によって影響する範囲と期間が広がる見込みで、まさに泣きっ面に蜂。そこで期待が寄せられるのが、インターネット上で展示会を実施するバーチャル展示会。これだけネットが普及した今なら、当然の成り行きかと思いきや、実はいろいろと問題が多そうな気配。(「月刊サイゾー」12月号より転載)

クロサカ 今月のゲストはIT関連のセミナーやイベント、国際会議などの運営会社イーサイドを経営している荒井秀和さんです。新型コロナによって東京五輪の延期を始めとして、さまざまなイベントが大きな影響を受けました。当初は中止となるものが多かったですが、徐々にインターネット上のオンライン開催へ移行するイベントが増えてきました。私も10月に開催された「CEATEC 2020 ONLINE」【1】では、富岳のバーチャル出展をお手伝いしたのですが、やはりリアルのイベントと比べて、いろいろと違いを実感しました。荒井さんにもいろいろな影響があったと思いますが、いつ頃からか覚えていますか。

荒井 2月末に安倍晋三首相(当時)が、小中高校を臨時休校すると言った時から、急に風向きが変わりましたね。その頃から、イベント主催者から「どうしたらいいか」という問合せが増えました。正直に言うと、私も当時は甘く見ていたところがあり、遅くとも夏までには元に戻るだろうと思っていました。

クロサカ 実際には、4月7日に緊急事態宣言が出され、東京ではそこから1カ月半にもわたり外出自粛などが要請される状況が続きましたよね。

荒井 なので、会議や打合せなどをウェブ会議へ移行しました。私はIT畑と付き合ってきたので、ウェブ会議への移行は簡単でした。ただ、リアルに人が集まる会議については決めかねていて、どうしようかと話し始めていました。

クロサカ 毎日発表される新規感染者数とにらめっこしながら、検討していたんですね。

荒井 日本人の大半は、今までバーチャルで仕事をしたことがなかったじゃないですか。だからバーチャルが苦手で、どうしてもリアルでやりたい気持ちが大きくて、世間の目を気にしつつも、最後までリアルでできることを頭に描きながらすすめていた。でも、緊急事態宣言が出ると、もう無理だなと思って切り替えましたね。どの主催者も嫌がるのは(イベント自体の)中止で、要するにキャンセル料とか返金とか、マイナスのインパクトが現れるわけです。そこに、私たちがバーチャルでやれることを提案したのです。Zoomとかいろいろなツールが出てきたので研究して、社員にも慣れてもらい、バーチャルで実現できることを考えて、それを提案して行った。

クロサカ なるほど。それじゃあ、わりとスムーズにリアルからバーチャルへと移行できたんですね。

荒井 それが、やっぱり主催者も、なかなか「Yes」と言ってくれないんですよ。日本は前例主義だから、こんなウェブページを作って、チャット機能を付けて、とバーチャル展示会を提案したけど、イエスかノーか判断されないままズルズルと時間がたってしまって、困ったこともありました。

クロサカ 前例がないことほど準備に時間を掛けるべきで、だからこそ意志決定は迅速にすべきなのに、判断を先送りにしたせいで時間がなくなって結局グダグダになってしまうという、よくある光景が目に浮かびます。

荒井 イベントといっても、カンファレンスと展示会とでは違います。カンファレンスは、話せばいいだけだから、皆も受け入れるのが早かった。スピーカーも家から参加できるから助かる。だから、団体の総会や理事会みたいなものはすごくやりやすかったです。変な話、バーチャルのほうが参加率は高いし。ところが、展示会はすごく難しくて、今の時点でもまだ、これだというやり方が見えていない。

クロサカ 僕も海外を含めて展示会は結構見ました。でも、「これならバーチャルでやる意味がある」という展示会には、まだひとつも出会えていないですね。もちろん、バーチャルだからむしろ集客しやすかったという効果もありますし、それなりに楽しめたものもあります。でも全体の7割は、厳しいんですけど2分も見ていられなくて「そっ閉じ」という感じです。

荒井 正直、バーチャル展示会はやりたくないという意見は多いです。イベントでも、スポンサーが「バーチャル展示はいらないから、スピーカーの権利が欲しい」といわれたりもします。

クロサカ 展示会じゃなくてカンファレンスがやりたいということですね。

荒井 バーチャルならばそうですね。展示会ってリアルでも、ブースを外から眺めて、面白そうだったら展示を見て、興味を持ったら名刺を置いていく。でも、日本人の場合、遠巻きに見ている方が多くて、自分から積極的に名刺交換しようという人は少ない。バーチャル展示会にウェビナー機能を付けたり、名刺交換機能を付けても、ほとんど使われない。だから、日本人向けの展示会パッケージを作れたら、大儲けできると思います。

クロサカ 私が知っている展示会も、パッケージ化されたCMS(コンテンツ・マネジメント・システム)を買ってきて派手なウェブを構築するか、出展者にそれぞれ勝手にウェブ上にコンテンツを置いてもらって、そのリンク集みたいなウェブサイトを作っているか、どちらかです。それって、展示会でもなんでもないんですよね。

荒井 発想がリアルのままなんですよね。リアルの企画をバーチャルに突っ込んでいるだけ。だから、チラシを配る代わりにPDFをダウンロードさせたり、コンパニオンの代わりにAIロボットを入れたり。それはまったく違うんじゃないかなと思う。私もあるイベントでCMSを使いました。大手企業も使っているCMSなんですが、運営する側から参加者・来場者に連絡したり、管理したりする機能はすごく優れているんですよ。でも、参加者から運営側、企業側に話し掛ける機能がほとんど上手くいっていない。だから、参加者がバーチャルに入り込むことができない。

クロサカ 古くは「インパク」や「セカンドライフ」みたいなバーチャルスペースってあったじゃないですか。でも、出てくるたびに「コレジャナイ」感を皆が持っている。今回のバーチャルエキシビジョンを見て、それをまた繰り返しているようで、すごく気持ち悪い浮遊感があった。参加者から見ると、バーチャルスペースにいる人たちが、ある意味でお化けのようなんですよね。出展者の方も、まごまごしていて「どうすればいいの」となってしまっているようでした。だから、誰かが日本人向けパッケージを発明してくれる可能性に期待したい一方で、リアルのイベントをどうやって実現するかを真剣に考えないといけない、という気がする。

荒井 ニュースでコロナ禍でのリアルイベントを取りあげているのを見たんですが、参加した人が「人と話さないとわからない」って言うんですよね。要は、初めて行く飲み屋の扉を開けるのと一緒で、普通は怖くて開けないでしょ。

クロサカ その例え、適切すぎます(笑)。

荒井 俺みたいにどんなところでも入っていける人、そうはいないでしょ(笑)。だからバーチャルならば、ボタンひとつでいきなり入口から最奥まで来ちゃっている、みたいな感じでバーチャルブースを作らないといけない。最初に、格好いいCM映像みたいなのを流してから「さあ、どうぞお入りください」とやっても日本人には合わないんですよ。

クロサカ 的確すぎて涙が出てきます。今あるバーチャルな展示会は、「人と人」になっていなくて、今まであったリアルの手法をバーチャルにはめ込むことしか考えていない。

荒井 それだと意味がなくて、本当にバーチャル化するんだったら、ちゃんとお客さんの立場になって、入りやすい環境とか、ネット上での上手いPRだとかを、バーチャルを前提として考えていかないといけない。そうしたバーチャル展示会が出てくるには、もう1年くらいかかるんじゃないかな。その間に新型コロナが終息して、展示会も結局リアルとバーチャルのハイブリッドになってしまい、バーチャルエキシビジョンは上手くいかないまま終わる気もします。

クロサカ 正直に言うと、僕もそのシナリオになる可能性が一番高いと思っています。一方で、これから北半球が冬を迎え、11月や12月はまた、新型コロナで危機的な状況になる恐れがある。そうして「やっぱりリアルは無理」となって、いつまでもリアルとバーチャルを行ったり来たりして、「いつかリアルに戻れる」と信じたままズルズルと生煮えの状態が続くのが一番嫌ですね。

荒井 今の日本はそうなりそう。でも、国際会議は、そう簡単にリアルだけには戻れないですよね。

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