「大麻使用罪」の導入の是非は? 賛成派が見落としている論点
#大麻 #大麻使用罪 #マリファナ
なぜこのタイミングで?
確かに世界を見渡せば、大麻の非犯罪化の潮流は明らかだ。亀石弁護士が署名サイトに寄せた声明によると「世界約20カ国で個人的な使用のための違法薬物所持に対する罰則が撤廃され、大麻についてはおよそ50か国で非犯罪化されてい」る。亀石弁護士に賛同する声は多く、18日に「大麻使用罪」がツイッターのトレンドになると約5000名が署名した(19日未明現在)。
結局のところ、この論争の着地点は大麻の「非犯罪化」と「厳罰化」では、どちらが健全な社会の建設に寄与するかという1点に尽きる。
これを考える際、神経内科医で日本臨床カンナビノイド学会理事の正高佑志医師の指摘は、示唆に富む。正高医師は日刊サイゾーの取材に対し、「なぜこのタイミングで大麻使用罪の検討が俎上に上がったかを考えるべき」と述べる。
「2020年12月から今年1月にかけて、大麻は大きな転換点を迎えています。12月2日、国連麻薬委員会は医療や研究目的の大麻を、国際条約で定められている『最も危険な薬物』という分類から削除する勧告を承認しました。また、米国では間もなくバイデン政権が誕生しますが、副大統領のカマラ・ハリス氏は大麻関連の規制緩和に注力しています。バイデン政権の誕生によって米国議会は上院・下院ともに民主党が多数派になるわけで、2021年の間に全米で大麻の非犯罪化、もしくは合法化が起きる可能性が指摘されている。すなわち、現在、世界は大麻解禁に大きく舵を切ろうとしており、その影響は遠からず日本にも波及する可能性が高い。こうした巨視的な文脈から俯瞰すれば、厚生労働省の今回の動きは、『大麻を取り締まる』という仕事が消えることを防ぐための抵抗なのではないかと思われても仕方ありません」(正高医師)
役所が自らの仕事を確保する、というある種の既得権益の保護に動くことはありえない話ではない。正高医師は続ける。「東京オリンピックが好例です。コロナが未だ猛威を振るう状況にあって、2021年の開催に固執しているのは日本の政治家ばかり。結局、政策というものはある特定の人々に利益を誘導するために決まってしまう。今回の大麻使用罪は、そうした体質の一側面を示す事象のように思えます」。
こうした提言を踏まえて、改めて本題に立ち返る。「大麻使用罪」という罪が検討される現状において、私たちが考えるべきことは何なのか。「大麻使用罪」導入を支持する人々の一部からは、導入に反対する人々を「ヤク中軍団」「キマりたいだけだろ」「ヤバい奴ら」などと揶揄する言葉が聞かれた。“快楽に浸るために犯罪を肯定する異常者たち”といった蔑みの視線がそこにある。だが、今回の取材で話を聞いた「大麻使用罪」反対派の人々が見据えるものは、それとは全く別物だ。
前出の正高医師は、この大麻使用罪を巡る論争を、「議論」という営為をより建設的なものにするためのきっかけになれば良いと述べる。大麻使用罪導入に反対する人々は「大麻を合法化せよ」と述べているわけではない。国家の働きかけに対し、自分という個人が何を思い、どう行動するかについて自覚的であれ、と述べているのだ。正高医師は語る。
「違法なものを使用すれば罰せられるのは当たり前です。しかし、違法とされているものがなぜ違法とされているか立ち止まって考えることも必要ではないでしょうか。例えば大麻の場合、普通に生きるために大麻が必要という人も存在します。人間の体内にはエンドカンナビノイドと呼ばれる大麻成分に似た神経伝達物質が存在し、これが人の心と身体のバランスを整える仕事をしています。しかし、ストレスや加齢、また生まれつきの体質などさまざまな理由で、このエンドカンナビノイドが足りない事によって、頭痛、胃腸の異常、イライラ、体調不良をきたすことがある。そうした場合、大麻を摂取することで諸症状が和らぐ人が大勢います。それは視力が悪い人がコンタクトレンズをするのと同じことです。そうした人々にとって、大麻が一概に悪と呼べるのでしょうか」
物事の意味や意義はうつろう。とくに科学や医学においてはそうした事例は枚挙に暇がない。物事の多面的な意味や意義の「どれ」を選び取るかという営為には、大きな労力が伴うがゆえ、国家に判断を委ねるという選択もまた是。しかしそれが肯定されるなら、その逆の可能性を模索する姿勢も否定されるべきではない。求められるのは、偏見やレッテルを排除したフラットな議論だ。
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