黒人に植えつけた憎しみが白人社会に牙をむく──白人の前で黒人は話し方を調整! 人種差別とBLMの現実を撃つ本
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“黒人らしさ”を操って白人社会で生きる
ここまで主に論考や自伝を紹介してきたが、もちろん文学作品にもBLMとかかわりの深い本がある。そのひとつがヤングアダルト小説『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ あなたがくれた憎しみ』である。
「主人公のスターは近所の公立には行かず、郊外にある白人学生ばかりの私立に通っているアフリカ系の女子高生。白人の同級生と過ごす際には、幼なじみの黒人たちといるときとは話し方や振る舞いも変えます。いわゆるコード・スイッチングという行為です。マイノリティの黒人がマジョリティの白人に受け入れられるためには、白人にとって脅威にならない黒人像を演じることをしばしば迫られる。その状況を巧みに描いています。ネタバレになってしまうので詳しくは言えませんが、本書ではBLMで問題になっているような司法警察による黒人への不当暴力のみならず、黒人同士の暴力もティーンエイジャーの視点を通して前景化されます」(同)
著者のアンジー・トーマスによれば、本書のタイトルは96年に若くして銃弾に倒れたラッパーの2パックが使っていた「Thug Life(サグ・ライフ)」という言葉に由来する。
「生前の2パックはギャングスタにならざるを得なかった黒人の人生――『Thug Life』について語りました。『Thug』とは悪党や暴漢を意味する言葉ですが、それを彼は『The Hate UYou) Give Little Infants Fucks Everybody(子どもに植えつけた憎しみが社会に牙をむく)』の略だと説明したんです。つまり、貧困にあえぐ黒人がしばしばギャングに入らざるを得ないのは、白人社会が黒人を生まれたときから徹底的に差別し、憎しみを植えつけ、まともに生きるチャンスを奪っているからだと喝破したんですね」(同)
これは、西山氏が挙げたタナハシ・コーツとコーネル・ウェストの本にも通じる話だろう。そしてもう1冊、有光氏が推薦するBLM小説が『フライデー・ブラック』だ。
「本書は、1991年生まれの新人作家ナナ・クワメ・アジェイ=ブレニヤーによる衝撃的なデビュー作です。ヒップホップの歴史を塗り替え、BLMのアンセム『Alright』(15年)を生み出したケンドリック・ラマーの『心に描くものは、すべて君のもの』というリリックをエピグラフにしているのも興味深いですが、このアンソロジーに収録されているいくつかの短編に描かれているのは、すさまじいホラー映画並の憎しみ、怒り、暴力、そして恐怖で満たされたディストピア。リチャード・ライトの抗議小説『アメリカの息子』(40年)や短編集『アンクル・トムの子供たち』(38年)の現代版といえるかもしれませんが、本書の冒頭に収録された『フィンケルスティーン5』は、人種的暴力が生み出す絶望的な負の連鎖をドラマ化しています。ゾっとするほどの残酷な暴力とヘイトを描いたこの作品では、5人の黒人少年・少女たちが、白人男性によって無残に殺害されます。BLMの誕生のきっかけとなったトレイヴォン・マーティン君の殺害事件(12年)のときのように、この容疑者は“正当防衛”を盾に無罪放免になるんです。その結果、平和的な直接行動を訴えるBLMとは対照的に、この物語では白人に対する問答無用のすさまじい復讐が始まります。そうした中、『ザ・ヘイト・ユー・ギヴ』のスターと同じように、小さい頃から自分の“黒人らしさ”を慎重にコントロールしてきた主人公の怒りが頂点に達するのですが、そのときに起こるさらなる悲劇を痛烈な皮肉と共に描いています」(同)
冒頭で述べたように、今回のBLM運動の発端となったのは白人警官によるジョージ・フロイドさんへの不当な暴力だ。しかしBLMは、元をたどれば1619年にヴァージニア植民地へアフリカ人が奴隷として連れてこられた時点から始まっている。つまり、アメリカ建国以前から4世紀にわたり、アフリカ系アメリカ人は自由と独立と平等と幸福の追求のために戦い続けてきた。ここまで紹介した書籍を通して、彼らが経験しなければならなかった恐怖や苦悩、怒り、悲しみなどの一端に触れることができるはずだし、人種差別やBLMが日本に住む私たちにとっても決して他人事ではないことに気づくだろう。
(取材・文/須藤輝)
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