新型コロナで揺れる今こそ見たい『蒲田行進曲』! 偽りを真実に変える芝居の力強さにワクワクが止まらない
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主人公を取り巻く人間関係の描き方がすごい!
そしてもう1人の主役が、平田満さん演じるヤスです。ヤスの人懐っこさと前向きな明るさには、とても好感が持てます。「あんた、男としてのプライドないの? 大っ嫌いよそんな人!」なんて小夏に言われてしまうように、銀ちゃんへの執着が少し度が過ぎているのですが。後にまた触れますが、この度が過ぎた愛情が、危うさに変化していき、こちらも、一筋縄にはいかない魅力的なキャラクター像となっています!
この2人の間で揺れ動く、松坂慶子さん演じるヒロイン小夏にも目が離せません。酔っ払った銀ちゃんを家まで運んできたヤスに、「灯りを消して」という声だけがどこからか聞こえてきて……その声がもう、とてつもなく色っぽい……。華々しい女優オーラと裏腹に、その影に漂う哀愁感。眠っている銀ちゃんに向けて銃を構えるシーンがあるのですが、自分勝手な銀ちゃんへの怒りと哀しみ、でもすぐに隣に座り寝顔を見つめる姿には、彼女の心で入り混じる色々な感情が見え、とても切ない……。私の好きなシーンの一つです。
愛情と憎しみが同時に存在する愛の形は、女性なら共感できる部分があるのではないでしょうか。
ヤスとの結婚を機に、小夏がどんどん家庭的な顔に変化していくのも見どころの一つ。はじめはヤスを拒んでいた小夏でしたが、徐々に心を開いていき、それに伴い心が満たされているのが表情で分かるんですよ。
ここで面白いのが、安定していく小夏に対して、銀ちゃんとヤスの精神状態はどんどん不安定になっていくところ。新しい彼女と別れ、小夏にも振られ、仕事も上手くいかずに孤独を背負う銀ちゃん。ヤスは、この映画の代名詞とも言える「39段の階段落ち」の大仕事を引き受け、自虐的な言動を取るようになります。
銀ちゃん、ヤス、小夏。3人の心が共に満たされることは、絶対にないんですよね。その心のバランスに、私はとてもリアリティーを感じるのです。
そして、この3人の関係性。はじめは銀ちゃんが、ヤスと小夏それぞれ動きを支配しているように見えるのですが、単純な支配従属関係ではないんですよね。小夏は女の幸せを見つけ、銀ちゃんの元を離れていく……いわば絶対的でない男女関係の末路。そしてヤスは、銀ちゃんに仕え支配されているわけではなく、自らそれを望んでいるように感じられるのです。存在意義のない自分自身への絶望に溺れ、自虐的な行為で自分の存在を確かめているように見えます。階段から落ちた後、ボロボロの身体で再び銀ちゃんの元へ向かうヤスと、「上がってこい!」と手を差し伸べる銀ちゃん。お互いに依存し合っているような2人の関係性、結局どちらが相手を支配しているのか。映画撮影の舞台裏という欲が渦巻く環境の中、この入り組んだ複雑な人間関係で、人間の本質に迫っていく切り口……もう恐ろしささえ感じてしまいます。
このように、人間の本質に鋭く迫った内容を秘めながら、それを派手な演出で、コミカルな喜劇に仕上げてるのが、この映画の素晴らしさです!
どろどろした観点を語ってしまいましたが、映画全体はむしろカラッと、今の日本映画にあまりない活気と清々しさです。ラストの、「映画って良いなぁ」と心から思わせてくれるどんでん返しも最高ですよね。
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