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日刊サイゾー トップ > カルチャー > 本・マンガ  > ブサイク女子を描いたマンガ3選

『ガラスの仮面』美内すずえがブサイクとはなにかを描く良作! ルッキズム渦巻く社会をサバイブするマンガ3選

著者が1作描いて亡くなった幻の作品…

『エリノア』(週刊少女フレンド1966年15号掲載/マイフレンド1976年秋の号再掲)
 拙著の中でも特に読者からの反応が大きかったのが、谷口ひとみ先生の『エリノア』です。谷口先生がこの作品だけを残して亡くなってしまった、という経緯も、本作を強く印象づけるものとなっています。

 お城の女中として働く「エリノア」は、みんなの人気者であるアルバート王子に恋心を抱いていますが、あまりにもみにくい見た目のため、その思いは封印状態となっています。エリノアのブサイク表象が本当に画期的ですので、「少女マンガのブサイク女子って、実際そこまでブサイクに描かれてないよね~」とお思いの方にこそ見ていただきたいです。

 ある時、近くの森でおまつりが開かれることをしったエリノアは、仙女さまから三十時間だけ美しい少女になれる魔法をかけてもらいます。ここは完全に『シンデレラ』からのインスパイアですね。

「カミーリア」という謎の美少女に変身したエリノアは、アルバート王子とダンスを踊り、求婚までされますが、ここで大きな落とし穴が……。魔法がかかっている間でも、水面には本当の姿がうつってしまうのです。そして、案の定アルバート王子に身バレしてしまうのですが、その時の王子のセリフが「きみは あまりにもみにくすぎる!」……それ言っちゃうんだ! 彼の正直さには、エリノアのみならず、読者もまた大きな衝撃を受けるわけですが、物語はここからエリノアに更なる試練を与えていくのでした。つらい!

 本作は、誰がどう見ても少女マンガ史に残る傑作です。現在、入手困難なことが非常に悔しい。どうにか復刊して欲しいと願ってやみません。

『圏外プリンセス』集英社2014/10/24)
 古き良きブサイク女子マンガが続きましたので、ラストはブサイク女子マンガの最前線をご紹介します。あいだ夏波先生の『圏外プリンセス』は、現代の女の子にとって「ブサイク」の概念が顔面の造形にとどまらず、身体の方まで拡張しつつあることや、美人とまでは行かなくても、ひとまず地味女子を脱出することで、ある程度の自己肯定感を得る様子などが、大変リアルに描かれています。

 ヒロインの「美人」(と書いて「みと」)は、名前のせいで、ずいぶんと苦しい思いをしています。オタクで、地味で、美容にも関心がなくて……という性格に「美人」の名前は重すぎたのです。

 しかし、とある男子に片想いをした美人は、かわいくなる努力を始めます。恋することでヒロインの行動や見た目が大きく変わるのは、少女マンガの定石ですが、本作が素晴らしいのは、もともとの素材の良さではなく、「盛る」努力がきちんと評価されていること。そして、世間によるジャッジではなく、自分内での伸び率をきちんと評価していく姿勢がはっきりと描かれていること。ジャッジされる側からうまいこと抜け出し、主体的に美を獲得しようとているのが、とてもよい!

……と、この調子で永遠に作品紹介ができてしまうのですが、今回のところはこの辺で。良質なエンタメにして、ハッとするような奥深さを見せてくれる。それが少女マンガのブサイクヒロイン。彼女たちの物語をあなたもぜひ味わってみてください!

トミヤマユキコ(大学講師・ライター)

1979年、秋田県生まれ。ライター、東北芸術工科大学芸術学部講師。「毎日新聞」「yomyom」「エル・グルメ」などで連載中。大学では少女マンガ研究をメインとしたサブカルチャー関連講義を担当。著書に『少女マンガのブサイク女子考』(左右社)『夫婦ってなんだ?』(筑摩書房)『40歳までにオシャレになりたい!』(扶桑社)『パンケーキ・ノート』(リトル・モア)など。また共著に『大学1年生の歩き方』(左右社)などがある。

とみやまゆきこ

最終更新:2021/01/06 17:32
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