受験は結局「課金ゲーム」なのか──ゆとり教育と日能研が火をつけた中学受験と受験メディアへの功罪
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ゆとり教育が加熱のきっかけに
中学受験自体はかなり昔から存在するが、これほど過熱したのはいつ頃からだったのだろうか? 鳥居氏は、このように語る。
「名門中高一貫校は100年以上の歴史を持つところが多いですが、かつては、そういった名門校は、偏差値競争とは異なった観点から、上流家庭の親がその学校理念に共鳴するという意味で、代々子どもを入学させているケースが多かったような気がします。ところがある時期から、塾が作成した偏差値ランキングによって中高一貫校が評価されるようになり、これまでは私立中学とは無縁だったタイプの家庭までが、中学受験に参戦するようになっていきました。そのターニングポイントとなったのが、02~11年頃まで行われた、ゆとり教育だったような気がしますね」
鳥居氏によると、特に日能研の代表取締役を務めている高木幹夫氏などが、「ゆとり教育で円周率を3と教える。そのような公立教育に子どもを任せてもいいのか」といったキャンペーンを張り、公立教育に不安を感じた親たちが大量に中学受験を目指し始めたそうだ。
そのような親たちが子どもを託したのが、日能研のような大手中学受験塾である。1973年に設立された老舗の日能研のほかに、現在中学受験のトップ層を一手に引き寄せている塾といえば、1989年設立のSAPIX。これと75年設立の早稲田アカデミーが、中学受験の大手三大学習塾といわれている。
心許ない公立中学ではなく、質の高い私立中高一貫校に子どもを入れることで、素晴らしい教育が受けられ、子どもの未来は輝く。こういったイメージづくりには、雑誌などのメディアも大いに協力してきた。鳥居氏が言う。
「中学受験をする親をターゲットにした雑誌の代表的な存在が、06年に定期刊化された『プレジデントFamily』(プレジデント社)ですね。『東大に入れた子の親は何をしたのか』『医学部に入れるにはどうしたらいいのか』『お金持ちの家ではどんな教育方針をしているのか』といった記事が雑誌のメインで、教育意識の高い親のニーズに応えた誌面づくりとなっています。上は医学部進学情報から、下は乳幼児の子育て、小学校受験の情報まで載っていて、受験開始年齢の低年齢化にも対応しています。『進路・進学・勉強法』を特集の柱にした、まさに受験のガイドブックですね」
確かに、20年秋号の誌面を見ても、コロナ禍の休校で生じた勉強の遅れを取り戻す方法を東大生が指南する特集や、東大生の家庭を訪問し親子にどのように勉強が好きになったかを聞くインタビュー、さらには机の上に置くと勉強がはかどるグッズの紹介や、小学生向けのドリルのようなページなど、受験意識の高い親のニーズに即したページづくりとなっている。
そして、中学受験塾の広告や、中高一貫校の学校紹介が入っていることからも、受験産業と持ちつ持たれつの雑誌であることは明白だ。
「確かに『プレジデントFamily』に載っているご家庭は素晴らしいですが、あれを読んだ人が皆、うちもこの家庭のようになれるかも、と思ってしまうのは危険です。子どもが優秀な家庭というのは、大抵親の教育水準や教養も高く、家に大量の本があったり、親も日常的に勉強をしたりしているもの。まねをして一朝一夕に身に付くようなものではないのです。中学受験塾に通っているお子さんには、まったく授業についていけない、あるいは受験勉強が向いていないお子さんもいるのですが、当然そのような家庭は誌面には登場しません」(鳥居氏)
このような中学受験雑誌には、ほかに「AERA with Kids」(朝日新聞出版)、日能研の教材を刊行するみくに出版が86年に創刊した「合格レーダー」(現「進学レーダー」)などがある。これらは子ども向けというより、子どもに中学受験をさせる親に向けた内容となっているのが特徴だ。
「今、中学受験に目をつけた媒体が、学校から宣伝費、広告費をいくらかもらって紹介記事を書くケースが増えています。これらは学校に正面から取材に行っているので、学校の新しい教育体制や、一部の素晴らしい生徒の業績は伝えることができますが、それは一面でしかありません。どの学校にもいい面があるし、悪い面もありますから、本当にその学校のことを知ろうと思ったら、説明会に行って空気を肌で感じ、先生にいろいろ質問したほうがいいですね。ネット上の掲示板を参考にする人も多いですが、こちらは誹謗中傷だらけなので、逆の意味で当てにしないほうがいいでしょう」(小山氏)
親ではなく受験生に向けた雑誌では、大学受験まで目を広げれば、昭和7年から刊行されている超老舗の「蛍雪時代」(旺文社)などもある。かつては学研から刊行されていた「高3コース」といった競合誌もあったが、今は「蛍雪時代」が唯一の大学受験専門誌だ。ほかに数学に限定された専門誌としては、東大レベルの問題を扱って、読者から送られた模範解答を添削することで知られる、「大学への数学」(東京出版)という雑誌もある。しかし、現在は「スタディサプリ」といった、スマホで見れる勉強アプリが急速に台頭しており、これらの受験雑誌がこれからも安定した支持を得続けるかどうかは、未知数だといえよう。
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