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パンドラ映画館特別編

『千尋』から『鬼滅』へ…国内首位の座を禅譲! 災害とヒット作がリンクする日本映画の20年

大災害や社会の闇とリンクするヒット映画

 この20年間の日本映画を振り返ってみると、ヒット作は大災害や社会の闇と密接にリンクしているということを強く感じさせる。

 『千と千尋』が制作された00年前後は、凶悪な少年犯罪が多発した。豊川市主婦殺害事件、西鉄バスジャック事件、岡山金属バット殺人事件などが、まるで連鎖反応のように起きている。宮崎駿監督が『千と千尋』の中で、コミュニケーション障害をこじらせ、承認欲求を肥大させた怪物「カオナシ」を描いていたことはとても象徴的だった。

 250.3億円の興収を記録した新海誠監督の『君の名は。』(16)は、11年に起きた東日本大震災がモチーフとなっていた。未曾有の大災害となった3.11からわずか5年で、被災地以外で暮らす人たちには他人事のように風化されていった。もしも、自分が被災する側の立場だったら……。被災者と傍観者との意識が入れ替わる『君の名は。』は、平和な暮らしを享受する日本人の潜在意識に働きかけるものがあったのではないだろうか。

 人を喰らう鬼たちと家族想いの少年・炭治郎が戦う『鬼滅の刃』は、コロナ禍で先行きの見えない不透明な時代において、「鬼殺隊」の最強剣士のひとりである「炎柱」煉獄杏寿郎のような信頼できるリーダーや上司がいてほしいという、一般市民の願いが大ヒットを後押ししているように感じる。「強く生まれし者の責務」とは煉獄杏寿郎が劇中で語る台詞だが、責務をまるで感じさせない政治家や会社経営者があまりにも多すぎる。

 是枝裕和監督の『万引き家族』(19)はカンヌ映画祭パルムドール(最高賞)を受賞した話題性もあって、社会派作品ながら45.5億円の好成績を残した。ネグレクト、年金の不正受給などの格差社会の現状をまざまざと見せつけたことから、「国辱映画」と批判する声も挙がった。狭量な声が出てくることも含め、映画は現実社会の写し鏡であることがよく分かる。

 武正晴監督ら映画スタッフが手掛けたNetflixオリジナルドラマ『全裸監督』(19)が大きな話題を集めたことも、記憶に新しい。日本経済がイケイケだった1980年代のアダルト業界を舞台にするという刺激的な内容だけでなく、複数の脚本家たちによる集団創作、撮影に入る前にスタッフとキャストがハラスメント研修を受けるなどの世界基準のスタイルも、旧態依然とした日本の映画界に影響を及ぼしつつある。

 20年は、Netflixなどの動画配信サービスの需要がいっきに広まった一方、経営基盤が脆弱なミニシアターは厳しい状況に追い込まれている。「ミニシアターエイド」はクラウドファンディングによって3億3000万円以上の支援金を集めたものの、一度途絶えた客足を呼び戻すことは容易ではない。劇場や映画館という街の文化拠点を失うことは、地方文化の衰退を加速させることになってしまう。

 自主映画出身の大林宣彦監督が4月10日に亡くなったのも象徴的な出来事だった。

 『転校生』(82)や『時をかける少女』(83)など、大林作品にはインディペンデントな気風が溢れていた。晩年になっても作風はどんどん自由度を増し、遺作となった『海辺の映画館 キネマの玉手箱』(20)はもはや映画という概念からも逸脱したものに仕上がっていた。低予算であることも、自由な作品づくりの糧としていた。大林監督の創作姿勢は、これからの映画界にとっての大切な遺産となるだろう。

 社会の変化によって、また作り手の意識によって、映画という媒体は大きく変容していく。そのことを痛感させた20年間だった。

最終更新:2020/12/31 08:00
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