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日刊サイゾー トップ > カルチャー  > 『鬼滅の刃』のプロデュースワークの巧みさ
(前編)

【伊藤智彦監督と振り返る2020年のアニメ業界】『鬼滅の刃』に感じたプロデュースワークの巧みさ

『鬼滅の刃』は現在の神話

――劇場版『鬼滅の刃』はあまりに説明口調すぎるとツッコミを入れる人もいます。物語もわかりやすく、あまり考える余地がない作品ではありますね。SNSの話になってしまいますけど、間違って解釈することがすごいダメージになる時代で、間違うことを極端に嫌う風潮ですし、時代として分かりやすさは大事なのかもしれません。

伊藤:そうですね。視聴者側がまず誤読しない。テレビ版は俺はああいう説明の多いセリフでいいと思っています。結局テレビって、ながら見をするじゃないですか。音声で今切られた、痛いって聞くと「ああそういう状況なんだ」と分かる。ただ映画は作画があれだけしっかりしているので、それをあまりやらなくてもいいんじゃないかなとは思いますけどね(笑)。

 また『鬼滅』を見ると、人々は強い物語を求めているのではないかと感じます。イスラエルの歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは著書の中で、神話がなぜ必要とされるのか書きましたが、それと同じことが混沌とした世の中に求められているんじゃなかろうかと。とても正論を語る主人公、正論、理想論を貫く強いキャラクターたち。それが求められた結果が劇場版『鬼滅の刃』ともいえるのではないかと。

――劇場版『鬼滅の刃』が神話というのは納得です。主人公の竈門炭治郎も正論だけを貫いて、現実にいれば一種のサイコパスですからね(笑)。

伊藤:それが今や小学生が憧れる人1位が『竈門炭治郎』ですからね(笑)。ただ情操教育的にはいいんじゃないですか。「家族や仲間を大事にしよう」「努力をしよう」「わがままは言わない」「負けても顔を上げよう」とか。とても正しいことしか言ってない。そのまま真っすぐに育ってもらえれば日本は安泰です。

 よく言うネットでの正しさ、小賢しい正しさでなくて、『鬼滅』が語るのは道徳教育の正しさ。ややこしいことをみんなが言い出してる時に、カラッとしたわかりやすさの気持ち良さが改めて良かったのだと思います。シンプルな形態での強い物語が世の中で受け入れられている。

――コンテンツ的に「わかりやすさ」はこれからのキーワードかもしれませんね。『鬼滅』のヒットで、宮崎駿監督が週刊誌に直撃されるという出来事もことしはありました。宮﨑さんがゴミ拾いをしているところを記者が直撃して、何もコメントはしないから、ただ記者がゴミ拾ってるおじいちゃんの邪魔をしてるだけという(笑)。

伊藤:宮崎監督の作品と『鬼滅』は同じ土俵じゃないので、それは何も言わないと思います。注目は日本アカデミー賞が『鬼滅』にどれだけ賞をあげるのかですよ。

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