元芸人が「M-1 2020」を徹底分析!マヂラブが見せた2つの“漫才コントの型”
#お笑い #芸人 #M-1グランプリ #マヂカルラブリー
錦鯉まさのりさんが一発で変えた不穏な空気
8組目は「アキナ」。
今回最も下馬評が高く、優勝すると言われていたコンビだ。
ただ蓋を開けると8位という結果に終わった。何故そうなったのか。ひとつはネタの題材。漫才というのは凄いもので、台本がいかに面白くとも演じる人間に合っていないネタは面白く感じないのだ。漫才中の二人の落ち着き、テクニックを見る限り、関西では相当な場数をこなし、人気実力共に申し分ない存在なのだろう。
そんなオーラが出ている人間が「好きな子に良い恰好をしたい」という幼稚なテーマではリアリティが感じられない。リアリティが無い漫才はウケるはずが無いのだ。そしてもうひとつの理由は、コントの間で漫才をしていたという事。東京ホテイソンの時と同様で、これは漫才というコントであった。しかも個性の強いキャラクターを演じるわけでは無く、限りなく素に近い状態で日常を描くようなコントだ。その為、緩急の緩の部分、あえて小声で話したり、あえて無言になるというコントでは成立する部分が、漫才では聞き取れないほど小声になったり、退屈なくらい間延びしてしまうのだ。せっかく起こった笑いを止めてしまうネタでは、優勝は難しいだろう。
さらに致命的だったのは二人のキャラを知らないと笑えない部分が多数あったという事。ファンの前では言い回しや雰囲気で笑わせられる部分も、アキナを知らない人間には通じない。初見の人にでも通じるネタを選択すれば、もっと良い成績を残せたかもしれない。
9組目は「錦鯉」。
10組の中で唯一僕より前に芸人を始めた先輩芸人(ボケの長谷川さん)がいるコンビである。
正直、一組前の優勝候補だったアキナが敗れ、沈んだ空気の中ではやりにくいのではと思っていたが、さすがベテラン。登場してすぐボケの長谷川さんが「こんにちは~」と大声で天真爛漫に挨拶した瞬間、会場は錦鯉が運んできた陽気な空気に一変した。
敗因があるとすれば、ツッコミである渡辺さんの前半のテンションだ。
後半に向かってテンションを上げていく為、最初は抑えておくつもりだったのかもしれない。しかし錦鯉の場合、ボケとツッコミ間で声量とテンションの差があまりにも有り過ぎ、ツッコミがスカシて見えてしまった。会場ではテレビを通す以上に声量が小さく感じる為、ほとんど聞こえないに等しいと思う。
前述したが、面白さは声量に比例するという持論が彼らにも当てはまる。テンションや声量にバロメーターがあり10段階に分かれているとするならば、ネタは5で始まり9で終わるのが丁度いい。一般人にとっては普通より高めのテンションである5でも、観客を笑わせるには最低でも5は無いといけない。そして最後が10ではなく9なのは、10にするとうるさく感じられる危険性があるからだ。渡辺さんが5→9でテンションと声量をコントロール出来ていれば、バランスも良く、もっと上位に滑り込んだかもしれない。
最後は「ウエストランド」。
東京芸人にしては珍しく、しゃべくり漫才を武器に勝ち上がってきた。
今回のM-1を通して、ツッコミの井口さんの「無作為に人を傷つけるお笑い」「そもそも芸人に品行方正を求めてくんなよ! うっとおしいなぁ」というセリフは衝撃的で、僕の心に刺さった言葉だ。
ぺこぱのような誰も傷つけない笑いが流行っている一方、芸人には「破天荒で一般人には出来ないようなタブーを犯してくれるんじゃないか」という一種のドキドキ感やスリルを求めてしまう反面もある。井口さんのその堂々とした態度で叫んだこの一言はとても清々しく、僕のほかにも賛同し感動した芸人が相当数いるはずだ。
ただネタ自体は、もう一歩だと感じる。
ボケの河本さんが「僕結婚してまして、そろそろ不倫したいなと思っていて」とネタが始まる。このご時世では嫌悪感を抱かれるセリフ。井口さんにマッチングアプリを勧めるという設定なら、別の切り口でも可能だったはずだ。
ウエストランドに過激な発言をする人間は一人で十分だ。
井口さんは過激な発言をしても許される愛嬌を持っているので、河本さんはもっと万人に好かれるようなキャラに転換し、井口さんに嫉妬されるようなポジションになり、個性の差別化を図った方が結果的に二人とも愛され、バラエティなどの活躍の幅が広がると思う。
もちろん漫才のネタの幅も確実に広がる客観視してアドバイスを与えてくれるブレーンがいれば、一回りも二回りも成長したウエストランドが見られる日も、そう遠くはないと思う。可能性に期待だ。
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