紗倉まなの登場は偶然か必然か──単なる告白本から文学へ昇華した「AV女優小説」の進化論
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AV女優ではなく作家として評価された功績
話題性ではなく作家性が評価され、AV女優小説に変革をもたらしている紗倉まな。しかし、門外漢である小説の世界では、評価の前に“AV女優が書く小説としては”という枕詞がつけられてしまうこともあるだろう。確かに今では又吉直樹に対して、“芸人のくせに”と揶揄する人は少ないだろうが、『火花』で芥川賞を受賞した際は、話題性を優先したのではないかという声もあった。
「又吉さんはずっと太宰好きを公言されていて、公私にわたって本に関する活動もたくさんして来られました。だからこそ、執筆に関しても『本気なんだな』と受け入れられたのではないでしょうか。その上で何よりも作品がおもしろかった。
紗倉さんもご自身が影響を受けた作家さんへのリスペクトがすごくある方。文学オタクなんだと思います(笑)。インタビューでは桜庭一樹さんの話などもよくされますし、そうすると桜庭さんやそのファンの方が紗倉さんの作品に対してリアクションしてくれて。住野よるさんなど対談もいくつかしていただいたんですが、相手の作家さんたちも、彼女から創作の刺激を受けられるケースがあったようでした」(前出・川戸氏)
このところ他業界からの参入を歓迎している出版界では、専業作家も肩書きなど気にせずに作品を評価しているようだ。芸人やアイドルが手がけた小説も当たり前になってきたが、AV女優の“私小説ではない”物語が、彼女の作品をキッカケに認知されていく可能性があるだろう。
「AV女優だから書ける世界がある、ということも特にないと思います。個人の資質によるところが大きいのではないでしょうか」(須田氏)
「ここ数年で、タレントとして本業をこなしながら何冊も作品を出せている方というのは、又吉さんと紗倉さんのお2人だと思います。だから特例中の特例だと思いますが、今後、紗倉さんが又吉さんのように芥川賞や何かほかの文学賞を受賞したら、時代がまたひとつ動くのではないかと期待してしまいます」(川戸氏)
より需要が高まるAV女優が語る“性”
さらにAV女優小説の追い風となっているのが、昨今“性”に関する問題があちこちで盛んに論じられるようになってきていることだ。去年は、河出書房新社が発行する季刊文芸誌「文藝」秋号の「韓国・フェミニズム・日本」の特集が話題を呼び、17年ぶりに重版されて計1万4000部を売り上げたという、出版界には非常に明るいニュースもあった。読者の割合は圧倒的に女性が多く、SNSの口コミによる後押しが大きかったという。
「近年、女性作家が書く、性や生殖をテーマにした小説が増えたと感じています。出生率が下がり、昔ながらの家父長制度や結婚の概念が崩壊しつつある現状を、女性作家の皆さんが敏感に感じ取っているからだと思います。AV女優の方々もその変化を肌で感じて、それを小説として表現なさる方も出てくるかもしれません。小説を依頼する際は、SNSでどんなことを発信なさっているのかはチェックしますが、基本的には過去に本や雑誌でどのような文章をお書きになっているか、という点を一番見ます。ブログやnoteなどでまとまった分量の文章をお書きになっている場合は、それが依頼のきっかけになることもありますね。今後、AV女優の方がそういう形で文章を発表する機会が増えるようでしたら、それをきっかけに依頼させていただくこともあるかもしれません」(須田氏)
今やアジアを中心とした海外でも、影響力を増している日本のAV女優。ジェンダーやフェミニズムが社会の重要テーマとなっている中で、さまざまな表現方法で活躍の場は広がっていくだろう。
(文/小川でやんす)
※「月刊サイゾー」9月号より一部転載。完全版は「サイゾーpremium」でお読みいただけます。
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