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ネットフリックス番組も…アメリカで大麻系エンタメが一般化!一般人はどう捉えていのか

アメリカ国民はなぜ大麻合法化を支持するのか

 ニューヨーク市の繁華街を歩けば、かなりの確率で、路上で大麻を吸う者を見かける。

 大抵の場合は不良然とした若者か、貧しそうな風貌の人々で、通行人が彼らに向ける視線は総じて冷ややかだ。クラスメイトや同僚同士のパーティで大麻がこっそり回ってくることは往々にしてあるが、あくまで “ハメ外し”であり、日常的・常習的に「大麻を吸っている」と告白すれば、心配されるか軽蔑される。結局のところ、大麻は社会生活に何らかの問題を抱えている人々が現実逃避の手段として手を伸ばすものという認識は根強いのだ。

 しかし上述したように、大麻合法化を支持する人々は増えている。統計的にも明らかで、調査機関のギャロップ社によると大麻合法化を支持するアメリカ人は1969年では12%だったのに対し、2020年では68%にもなる。大麻は「だらしない」という生活感覚と、3人に2人以上が合法化を支持するという現状は、一見矛盾するようにも見える。

 この疑問を解消してくれるのが、同じくギャロップ社が2019年6月に出したレポートだ。大麻合法化を支持する理由について尋ねており、支持派が最も重要な理由として挙げたのは「医薬品として必要としている人々の助けになる」(86%)、次に「司法や警察の労力を他の犯罪の取締りに回すことができる」(70%)、「大麻を吸うか吸わないかは個人の自由の問題であるべき」(60%)、「行政の税収増加につながる」(56%)と続く。

 ここで肝心なことは、「大麻を吸うか吸わないかは個人の自由の問題であるべき」以外の回答は、すべて公共の利益に帰する論点であることだ。特に注目したいのは「司法や警察の労力を他の犯罪の取締りに回すことができる」である。

 ざっくばらんに言おう。

 つまり多くのアメリカ人は「大麻ごときが犯罪とされているから警察は余計に働かなければならず、税金がかさむ。大麻を吸う者が大量にいるから刑務所の人口が膨れ上がり、囚人を養うための税金がさらにかさむ。そして一度刑務所に入ってしまうと職を見つけるのが難しくなるから再犯率が高くなり、結果として治安を維持するために税金が再びかさむ。ならば、たかが大麻で人を逮捕するのはやめるべきなのだ」と考えているわけだ。

 すなわち、少なくともアメリカにおいて大麻を「娯楽用」として合法化するという行為は、社会が大麻を嗜好品として評価し、それを受け入れたというわけではなく、単に社会の運営コストを削減するため、なし崩し的に非犯罪化した、という「後ろ向き」な所作なのだ。

 ところで今回、アメリカにおける娯楽用大麻の立ち位置を理解するため、複数名の在米ジャーナリストや様々な境遇の人々に話を聞いたが、取材を進めるほどにアメリカの娯楽用大麻と似た立ち位置の嗜好品が日本に存在することに気づいた。

 アルコール度数9%を売りにした「ストロング系チューハイ」である。

 そもそもは安価に、気軽に酔うために開発された商品であるが、そのアルコール度数の高さを省みないような飲み方をする人々が続出し、ここ1~2年でそれを危険視する言説が目立つようになった。代表例は2019年12月31日に国立精神・神経医療研究センター・精神保健研究所の松本俊彦医師がFacebookに投稿したものだろう。松本医師はストロング系チューハイを「『危険ドラッグ』として規制した方がよいのではないか」と述べた。

 社会生活におけるストレスやフラストレーションを忘れさせてくれる現実逃避のツール。いくら摂取しても法的に罰されることはない。しかし、毎日大量に摂取していることが周囲の人々に知られれば、心配されるか軽蔑される――この点において、アメリカの大麻と日本のストロング系チューハイは非常に似ているのである。

 両者の成り立ちを鑑みれば、この類似は単なる偶然なのだろう。けれども、着々と“日常品”になりつつある大麻に対して現在のアメリカ国民が抱く心情を、私達日本人が理解するための足がかりにはなり得る事象だ。

小神野真弘(大学講師・ジャーナリスト)

ジャーナリスト。日本大学藝術学部、ニューヨーク市立大学ジャーナリズム大学院修了。朝日新聞出版、メイル&ガーディアン紙(南ア)勤務等を経てフリー。貧困や薬物汚染等の社会問題、多文化共生の問題などを中心に取材を行う。著書に「SLUM 世界のスラム街探訪」「アジアの人々が見た太平洋戦争」「ヨハネスブルグ・リポート」(共に彩図社刊)等がある。

Twitter:@zygoku

最終更新:2020/12/23 20:00
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