[特別対談]石戸諭×辻田真佐憲──つくる会から百田尚樹へ…愛国・保守本市場の変遷
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保守は「そば屋を守ること」──適度な愛国物語を作るべき
――今後もこうした「愛国・保守」や「日本すごい」、もしくは「嫌韓・嫌中」といった内容の本は増えていくと思いますが、これらの書籍と我々はどのように接していくべきなのでしょうか?
辻田 ナショナリズムそのものを否定してはいけないと感じます。歴史学者の将基面貴巳氏が『日本国民のための愛国の教科書』(百万年書房)の中で、愛国の再評価を試みています。愛国という言葉の歴史をたどると、政権に盲従することや個人を抑圧することだけではなく、むしろその反対の可能性もあるというのですね。これはたいへん刺激的です。つまり愛国という言葉で、自称愛国者たちを批判できる。ですから、愛国という言葉に神経質に反応するだけではなく、愛国の物語のようなものも作っていくことが必要ではないかと思います。もちろん、「新宿駅の乗降車数がすごい」とか「トイレがきれい」とかはダメ(笑)。
石戸 良きナショナリズムということですよね。自分も今回の本で触れたんですけど、丸山眞男の民主主義とナショナリズムの結合、そして柳田國男の言葉は大事な戦後の原点だったと感じています。柳田は左派に批判されることが多かったと思いますが、橋川文三が指摘したように、真の「保守」言論人としての業績は素晴らしいものがあります。
辻田 「まともな保守」でもありますしね。評論家の福田恆存は、保守の価値観について「横町のそば屋を守ることだ」と例えました。そば屋とは飲み屋のことだと思いますが、要するに、保守は主義じゃなくて日々の生活態度だということ。「行きつけの飲み屋が大切」と言うと安っぽく聞こえてしまいますが、社交の場のコミュニケーションによってそこから新しい人間関係が生まれ、単なる右左に分かれられなくなる。手と足が届くコミュニティに参加し、「記号」に流されないことが重要なんです。
石戸 大人の考え方ですよね。この社会は複雑でいろんな考え方があり、ままならないこともあるが、社会を少しでもまともにしていく可能性があって、例え100点満点でなくとも10点増えればいいと思っていく……そういう、現実に即した考え方が大事なのでしょう。 辻田 しかし、リベラルは学級委員長みたいな人が多くて、100点しか許さない人が多い。しかも、今の左翼は「がんばれば勝てる」だとか、「声を大きくすれば勝てる」と思っている。日本ががんばれば中国を倒せると思っている右翼と同じですよ。
石戸 大きな声で叫んで政権批判をしているだけで、政権は倒れませんし、ツイッターのハッシュタグでトレンド入りしてもほとんど意味はありません。サイゾーで言うのも申し訳ないけど、「LITERA」はある意味、左の百田尚樹的なメディアでしょう。
辻田 あれ、運営側はわかってやっているんでしょうけど、真に受けて興奮してしまう読者もいるわけでしょう。そこが罪作りですね。
石戸 上手いなあとは思いますよね。ところで辻田さんは「LITERA」に叩かれたことあります?
辻田 むしろ肯定的に取り上げられたことがあります。
石戸 自分は批判されたことがあって。「この人は本当に元新聞記者なのか」って書かれました。本当かどうかを確かめるために、僕なら取材をしますし、取材してくれたらいくらでも答えますが、取材には来ません(笑)。揶揄して終わりです。
辻田 あのメディアって一種の判定装置になっていて、あそこで「こいつはダメ」って判断されると、途端にネット左翼から攻撃が来るんですよ。でも、私は肯定的に利用されたことがあるおかげか、石戸さんほど、変なリプライとかはあんまりないんですよね。
石戸 自分も肯定的に利用されたいものです(笑)。
石戸諭(いしど・さとる)
1984年、東京都生まれ。ノンフィクションライター。立命館大学法学部卒業。2006年に毎日新聞社に入社。16年にBuzzFeed Japanに移籍。18年に独立し、フリーランスに。19年に「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)の「百田尚樹現象」にて第26回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞を受賞。
辻田真佐憲(つじた・まさのり)
1984年、大阪府生まれ。作家・近現代史研究者。慶應義塾大学文学部卒業。同大学大学院文学研究科を経て、現在は政治と文化芸術の関係を主なテーマに、著述、調査、評論、インタビューなどを幅広く手がけている。主な著書に『大本営発表』(幻冬舎)、『文部省の研究』(文藝春秋)、『日本の軍歌』(幻冬舎)、『空気の検閲』(光文社)、『古関裕而の昭和史』(文藝春秋)などがある。
(文/月刊サイゾー編集部)
(写真/渡部幸和)
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