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『麒麟がくる』織田信長を滅亡させたのは魔性の香り「蘭奢待」だった? 天下人たちがこぞって欲した香木の文化史

『麒麟がくる』織田信長を滅亡させたのは魔性の香り「蘭奢待」だった? 天下人たちがこぞって欲した香木の文化史の画像1
『麒麟がくる』 

 最終回間近という時期に、かなりの独自路線を見せ始めた『麒麟がくる』。第37回の放送タイトルが「信長公と蘭奢待」だと知り、「三方原の戦よりも、蘭奢待(らんじゃたい)かぁ~」と唸ってしまいました。最近のドラマ内での宮廷文化推しの気配からも察せられることですが、『麒麟~』の製作陣は戦の描写などより、室町時代末期の上流文化の映像化に重きを置いているのかもしれません……。

 さて、ネットでも話題を呼んだ「蘭奢待」とは何かについて、今回はお話しします。
蘭奢待は、伝説の香木の“雅名”ですね。正式名は「黄熟香(おうじゅくこう)」。東大寺の大仏を建立させたことで知られる聖武天皇(701-756)ゆかりの文物で、奈良の正倉院に現在も大切に保管されています。

『麒麟がくる』織田信長を滅亡させたのは魔性の香り「蘭奢待」だった? 天下人たちがこぞって欲した香木の文化史の画像2
蘭奢待

 聖武天皇の治世中に中国から送られたものだといいますが、産地は長年不明でした。しかし、米田該典博士の科学調査によると、「ラオス中部~ベトナムにかけての東部山稜地帯」の産ではないかとのことです(『全浅香、黄熟香の科学調査』)。

 実物は大きく、「長さは160㎝あまり、重さは11.6キログラム」(山田憲太郎博士の調査)。織田信長や徳川家康の時代には、その姿を見るだけでも天皇による許し、つまり勅許が必要でしたが、現代では特に秘密にされた存在というわけではありません。令和への改元を祝って、2019年中に東京でも開催された正倉院展へ出品されていましたね。

 蘭奢待は貴重な文物ですが、「天下第一の香木」であるため、ある意味“消耗品”でもあります。現時点で、切り取りされた3箇所には付箋が付けられ、それぞれに足利義政、織田信長、明治天皇と切り取りをした人物の名前が書いてあります。しかし、これが指すのは堂々と切り取ったのが3人いたという事実だけ。蘭奢待の切り取りはそれだけでは終わらず、一説に50回ほどは秘密裏に切られていたのであろうという事実が近年の調査で判明しているのですね。

 何時からかは不明ですが、「蘭奢待を切り取らせると不幸が訪れる」というウワサが流れるようになったらしいことと、秘密裏に切られた跡が多数あったことは無関係ではないでしょう。記録を見る限り、なるべく丁寧にコトを進めたようでいて、ときの帝・正親町天皇(『麒麟』では坂東玉三郎さん)を完全に納得させていないにもかかわらず、蘭奢待を堂々と切り取ってしまった織田信長が「本能寺の変」で討たれたため、蘭奢待は“不幸をもたらす名香”として恐れられていたらしいことがわかります。

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豊臣秀吉

 その一方で、歴史上のさまざまな人物が、蘭奢待の香りに接したことも判明しています。たとえば、自身のカネと権力をひけらかすのが大好きな豊臣秀吉。彼が蘭奢待に興味を示さないワケがないと思って調べたら、千利休が自身の茶会で豊臣秀吉をもてなした中に、「蘭奢待を秀吉のために炊く」という記述が見つかりました(『千利休の「わび」とはなにか』)。

「なぜ、千利休が?」と読者は疑問に思うかもしれませんが、天正2(1574)年4月3日、織田信長は自身の茶会に千利休と津田宗及の2人を呼んで、自分が所持していた蘭奢待の一部を、2人に分け与えていたそうです。

 ちなみに、信長が切り取らせた蘭奢待は2箇所。一つは自分用、もう一つは正親町天皇への献上用です。切りとった長さには諸説あり、「一寸四分」と「一寸八分」の間でまちまちで、香道に関して権威ある書とされる北小路功光の『香道への招待』では、「一寸四分」説を採用していますね。

 ただ、信長は仏像を作る仏師を派遣し、蘭奢待を切り取らせています。少なくとも信長の中では蘭奢待は神聖で、御神体のような扱いだったことが推察され、この点から、古来より小型の観音仏の定型サイズともいえる「一寸八分」説に信憑性がある気はしますが。

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