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エナジードリンクの戦略と安全性を考える! 栄養ドリンクとして売れないから10代をターゲットにした?

──さまざまな種類のエナジードリンクが市場に出ているが、多くのメーカーは若者をターゲットにしており、大学の近くなどで販促されることも多い。なぜ、エナドリは若者に向けて売られているのか? そして、最近は若者どころか、小さな子どもたちも飲んでいるが、果たして大丈夫なの?

エナジードリンクの戦略と安全性を考える! 栄養ドリンクとして売れないから10代をターゲットにした?の画像1
「レッドブル」公式サイトより

 コンビニやスーパーマーケットなど至るところで販売されるようになり、疲労回復のお供としてすっかり定着したエナジードリンク (以下、エナドリ)。売り上げもすこぶる好調で、3年前に比べて市場規模が約1.4倍に拡大し、2018年7月~19年6月においては459億円の市場となっている(出典「インテージ 知る Gallery」の「エナジードリンク市場 ~市場急成長の要因を探る~」)。

 業界内の2大ブランドとされているのは「レッドブル」と「モンスターエナジー」で、他社からも毎年のように新商品が発売されているが、この「2強」の壁を破れずにひっそりと姿を消していくのが常となっている。

 しかし、最近では飲料業界の巨人であるコカ・コーラ社が「コカ・コーラ エナジー」を引っさげて参入したり、サントリーの大容量の「ZONe」が存在感を強めるなど、業界は活況を呈している。

 こうしたエナドリと、従来の「栄養ドリンク」の違いがわからないという人も多いだろう。もちろん、成分の違いなどもあるが、まず特筆すべきなのは「若者に強くアピールする」販売戦略だ。

 例えばレッドブルとモンスターエナジーの2強は、F1やエアレース、エクストリームスポーツのほか、人気のポップスターなどとコラボして若者に訴求してきた。他方で新興勢力の「ZONe」はVTuberやeスポーツ、人気アニメなどのデジタルカルチャーと手を結び、若年層に対するターゲティングをより鮮明に打ち出している。

 このように、エナドリは若者が好むカルチャーをバックボーンにして台頭してきた歴史がある。本稿では、これらエナドリが若年層に浸透していった要因を明らかにしつつ、彼らの間で顕在化する“異変”も見ていこう。

レッドブルよりモンスターが人気なのは「量が多い」から?

「レッドブルは日本に上陸したときから、若者をターゲットとしていました。日本で発売するにあたって成分を変更する必要もあったので、『栄養ドリンク』としてではなく、『清涼飲料水』として販売することになり、コンビニや若い人が集まるバーやクラブなどにシェアを広げていきました。また、明確な形でターゲットを若者に絞ったのはモンスターエナジーです。有名アーティストとのコラボを通じて、キャンペーンを行っていました」

 そう語るのは、ラジオや雑誌で各種エナドリについて解説し、製品のプロデュースなども行っているエナドリ評論家の福田慎一郎氏。同氏はレッドブルやモンスターエナジーが路上で行っているサンプリング戦略に触れ、こう続ける。

「エナドリにおけるサンプリングの強みは、缶とキャンペーンガールの写真をSNSでシェアしやすく、それを見た若い人が『僕らも飲んでみたい』と、コンビニですぐ購入できる点にあると思っています。逆にマイナーな商品だとサンプリングしても、コンビニで売っておらず、結局大手のレッドブルなどに手が伸びてしまうため、あまり効果がないようですね」

「日経トレンディ」(日経BP)19年11月号の「365日ゲリラサンプリングで若者を開拓 愚直な戦略でレッドブルを突き放す」という記事によると、エナドリの世界シェアトップはレッドブルだが、国内ではモンスターエナジーが大差でリードしているとのこと。そして、その秘訣は非効率ともいえる“ゲリラサンプリング”だという。

 レッドブルがテレビCMを連発する中、モンスターエナジーはそういったマス広告は一切打たず、東名阪や福岡の大学が集まる駅周辺で道行く人に商品を手渡している。他社との違いは、これを365日間続けているという点だ。

 また、福田氏が「マネー現代」に寄稿した「『モンスターエナジー』ここへきてレッドブルを超す人気となったワケ」という記事によると、容量と価格の面でもモンスターエナジーに分がある。レッドブルは250mlで275円なのに対し、モンスターエナジーは355mlで200円と、シンプルに「お得さ」が感じられるのだ。実際、福田氏が若者にモンスターエナジーを飲んでいる理由を聞くと「安くて量が多いから」という回答がもっとも多いのだという。

 さらに、レッドブルをはじめとするエナドリが、このような形で販路を拡大できた理由のひとつに、成分の問題がある。

 例えば「リポビタンD」などに代表される従来の栄養ドリンクは、薬事法において「医薬品」または「医薬部外品」に分類。これは病気に対する治療や緩和、予防効果が期待されることを意味する。そのため「滋養強壮」や「栄養補給」などといった宣伝文句が打てるのだ。

 これに対して、エナドリは食品衛生法の下「清涼飲料水」に分類されるが、この違いは「タウリン」が含まれるか否かによって生まれる。タウリンとはいったいどのような成分なのか?薬学博士のA氏に解説してもらった。

「タウリンはいわゆるアミノ酸から合成され、ホメオスタシスと呼ばれる“細胞を正常な状態に戻す作用”を持つ、生物にとって非常に重要な物質です。特に肝機能に対して効果を発揮するといわれていて、胆汁の分泌を促進したり、肝細胞の再生を促進します」

 海外で販売されているレッドブルにはタウリンが含まれているが、日本で売られているものには入っていない。タウリンが入っていないと、飲んでもあまり効果は得られないため、マイナスなイメージになりそうだが、「ITmediaビジネスオンライン」の「レッドブルが売れているワケ」という記事によると、レッドブルは医薬部外品ではなく、清涼飲料水になったことで「結果的に良い効果をもたらすこととなった」と分析している。

 いわく、医薬部外品にはリポビタンDのほかにも『ユンケル黄帝液』や『アリナミンV』などの強力ブランドがあり、新規商品が参入するには厳しい市場になっていたが、清涼飲料水(炭酸飲料)と商品登録されたおかげで、コンビニで一般飲料として陳列を行うことができたのだという。

 医薬部外品になると、コンビニに入って最初に目に入る冷温什器に陳列されるが、炭酸飲料(一般飲料)だとコーラや緑茶などと一緒のリーチイン(冷蔵ショーケース)に展開されるのである。

「栄養ドリンクは“疲れたときに飲むもの”というイメージを持つ人が多かったのですが、エナドリはCMなどを通じて、“アガるときに飲むもの”といった具合に、スポーツなど何かがんばるときに飲む、若者向けのスタイリッシュな商品であるというイメージを定着させてきたといえます」(福田氏)

 こうして、栄養ドリンクについて回る「24時間戦えますか」的なサラリーマンのイメージとの差異化に成功したエナドリだが、タウリンの代わりに添加されたのが「アルギニン」である。

「アルギニンは必須アミノ酸の一種、いわゆる人の体内で生成できないアミノ酸なのですが、正確には大人にはできて、子どもにはできない準必須アミノ酸です。代謝を良くするための物質ですね。アルギニン自体は有害な物質ではなく、よほど常識外れな量を摂取しない限りは問題はありません。ただ、成長ホルモンの分泌を促す作用もあるといわれているので、小さな子どもに摂らせ過ぎるのは良くないといえるかもしれません。他方でエナドリのテンションが上がるといったような覚醒作用は、主にカフェインによって引き起こされるものです」(A氏)

 現在、市場に出回っているエナドリの中にはカフェインが含まれていないものもあるため、そうした商品はテンションを上げることを目的とする人にとっては意味がないかもしれない。

 しかし、「翼を授ける」といったような、それっぽいキャッチフレーズと、なじみのないカタカナ語の物質でなんとなく「効きそう」感を演出しているともいえよう。

 結果として、成分的には似通った商品ばかりが出回るため、あとは資本力の勝負ということになり、2大ブランド以外のものが淘汰されていくというのが現実のようだ。今後もこの状況は変わらないのだろうか?

「おそらく、レッドブルとモンスターエナジーの2強の状態が続くと思われます。シェアを独占しているということが大きいですね。コンビニにおけるシェアではZONeやRAIZIN(大正製薬)も健闘しているのですが、結局は国内の大手企業でなければ、2強を打破するのは厳しいのかなと思っています」(福田氏)

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