トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > その他 > サイゾーpremium  > 五箇公一「密猟される昆虫と外来種問題」
「今こそ“昆虫”を考える」

虫を飼うのは日本人だけ?──国立環境研究所・五箇公一が語る「密猟される昆虫と外来種問題」

──「黒のダイヤ」ことオオクワガタのブーム以降、飼育者が子どもから大人に変わったことで、昨今は外国産の昆虫が高価格で取り引きされるようになった。しかし、その結果として、原産国では密猟や乱獲まがいの行為が行われているという。外来種が日本に輸入されることで、日本の生態系への影響も気になるが、他方でこのような昆虫ビジネスで日本は世界に迷惑をかけているという話も……?

虫を飼うのは日本人だけ?──国立環境研究所・五箇公一が語る「密猟される昆虫と外来種問題」の画像1
今でもとんでもない額で取り引きされているクワガタ。

 1990年代後半より始まった日本産オオクワガタや、外国産クワガタを中心とした飼育・販売のブームは、大型個体が高値で取り引きされるなど各所で話題となった。

 ひと頃のブームが落ち着いたとはいえ、今なおペットとしてカブトムシやクワガタを飼う人は多く、今年3月には生きたカブトムシを無許可で国外に持ち出そうとした邦人男性がブラジルで逮捕される事件も起きた。

 高額取り引きされることから、原産地ではこのような密猟や乱獲まがいの行為が横行しているケースが多発しているが、こうした昆虫ビジネスは日本や現地の生態系にどのような影響を及ぼしているのか? 『全力!脱力タイムズ』(フジテレビ系)などのテレビ番組でもおなじみの国立環境研究所の五箇公一氏(生物・生態系環境研究センター室長)に解説してもらった。

クワガタ飼育を楽しむのは日本独特のカルチャー

虫を飼うのは日本人だけ?──国立環境研究所・五箇公一が語る「密猟される昆虫と外来種問題」の画像2
「ダニ先生」こと五箇公一氏。研究室には虫ではなく、恐竜やゴジラなどのフィギュアがいっぱい。

 2000年前後の子どもから大人までを巻き込んだクワガタブーム。「黒のダイヤ」とも呼ばれるクワガタをはじめとする海外の昆虫は、現在も飼育用として大量に国内に輸入されているという。

「一時は年間100万匹以上ともいわれましたが、今でも数十万匹という規模で日本に持ち込まれていると思います。そもそも、世界的に見てもクワガタ・カブトの生きている個体の輸出の90%以上は日本向けという珍しいビジネスです。欧米でも蝶などの標本文化は浅くないですが、虫を愛でる感覚はまったく違いますね。『ファーブル昆虫記』のファーブル博士もですが、生きた昆虫を見て喜んでいる人って欧米では相当な変人扱いをされます(笑)。こんな派手に昆虫をペットとして輸入・販売しているのは日本だけです」

 日本でもメジャーな趣味とは言わないが、クワガタ・カブトなどの昆虫飼育は子どもの夏休みの活動として比較的広く認知されている。世界的人気ゲーム『あつまれ どうぶつの森』でも昆虫採集の要素があるが、これが海外プレイヤーからまったく理解されていないという話もある。

「確かに冷静に考えるとペットとしての魅力がどこにあるのか。同じ昆虫でもスズムシなら鳴き声を楽しむとかありますが、クワガタの幼虫はずっと土の中で、成虫になっても基本的に隠れて動かないですからね(笑)。日本でも90年代以降に菌糸ビン(菌床)が餌として流通するまで、クワガタの幼虫からの飼育は今よりずっとマニアックな大人の趣味の世界でした。ただ、私も研究用に飼育した経験がありますが、実際面白いですよ。見えないところで成長して形のいい成虫になる、春のタケノコ的な喜びがあって……。それも日本人独特な感じがしますけどね」

 だが、近年はそんな日本でも人里でクワガタ・カブトを目にする機会は激減した。里山の減少や日本の夏の気候変化などが要因として考えられている。

「日本のクワガタもいるところにはいて、国内のクワガタ・カブトの数が激減しているという定量的なデータはないのですが、地方の田舎でも身近な生活圏で見かけられなくなっているのは確かです。堆肥が主食のカブトは農業・畜産エリアなどで、わりと簡単に目にすることができますが、クワガタの生息には湿度が必要で、気温が高すぎてもダメ。最近の異常気象と呼ばれるような気候で、日本の夏の平野部はわりと砂漠質な環境になっているので、ミヤマクワガタやオオクワガタは山の中まで入って行かないと、なかなか見つけられません」

 また、中南米や東南アジアもパームオイルのプランテーションの開発や都市化によって熱帯林の減少が進み、クワガタ・カブトの生息環境は劣化している。

 さらに、自然保護区まで勝手に立ち入って密猟する人も増え、禁猟措置を発動した国もある。こうした事情もあり、日本の昆虫ビジネスが海外から批判されることもあるようだ。

「個人でも数匹レベルなら、隠して生きたまま国外へ持ち込むことは、そう難しいことではないでしょう。昆虫の中には餌や水がないとすぐに死んでしまう種類もありますが、特にクワガタやカブトなどの甲虫はタフで、餌なしで20時間とか飛行機で運んでも平気なんです」

 外来種の昆虫の持ち込みは申請などの手続きをしなければ植物防疫法に抵触するが、昆虫自体は基本的に禁輸品ではない。一部の限られた輸入禁止の種を除けば、無断で昆虫を国内に持ち込み、検疫に引っかかった場合も注意を受けて没収されるだけだという。

「クワガタやカブトの飼育に関しては家の中で大事に飼育されて、最後は標本にする方も多いので、環境省も『輸入した昆虫を外に逃がさないように』という啓発に舵を切っています」

12
ページ上部へ戻る

配給映画