宮下かな子、黒澤明映画『生きる』で自分を見つめ直す… “生きる意味を見つけた人間の瞳の輝き”の演技に脱帽
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余命いくばくで生きる意味を見つけた人間を演じる凄み
この作品で特に印象的なのは、なんといっても志村さんの目力! 無気力な表情の渡辺が医師と話をし、余命を悟るシーンから、目つきがガラリと変わるんです。目を見開き、まばたきをせず、この世の者とは思えない絶望の表情。それは、その後渡辺を取り巻く人々もギョッとして怖気付いてしまうほど。観ているこちらも気味悪くなるのと同時に、怖いけど目が離せない異様な雰囲気を醸し出していて、余命を知った人間の心情がひしひしと伝わってくるのです。
そんな渡辺の姿に、周囲の人も、そして観ているこちらも、恐ろしいと思ってしまうのはきっと、普段から死と向き合うのを避け、生きることについてそこまで考えずに生きているからなんじゃないかなあと思います。それでも死は、絶対的に訪れるものなので、だから恐怖心があっても、目を背けられない。人の死に対する考え方が、渡辺を見る人々によって表現されているように感じました。
そんな渡辺の絶望の表情に光が灯るのは、同じ市民課で働いていた小田切とよがきっかけとなります。元同僚のとよは、転職し、町工場でウサギの玩具作りをしています。とよとは街で偶然出会い、何度かデートを重ねるのですが、自由奔放で楽観的な彼女に渡辺は魅了されていき、ある時カフェで「どうしてそんなに活気があるのか」「どうしたら君のように」と詰め寄るんです。
とよは必死な渡辺の姿におびえながら、自分が作っているウサギの玩具を見せ「こんなものでも作ってると楽しいわよ。これ作り出してから日本中の赤ん坊と仲良しになったような気持ちになるの。課長さんもなんか作ってみたら?」と言います。それを聞いた渡辺は、少し考えた後、ニカっと笑い、「あそこでも、やればできる」と言ってカフェを飛び出すのです。
渡辺が生まれ変わるこの重要なシーン、是非注目していただきたい演出がありまして!
渡辺が思い立って店を飛び出そうとする時に、同じ店内にいた若者の集団がハッピーバースデーの大合唱で、誕生日の女性を祝福している様子が映されるのです。笑顔で階段を上り、祝福する若者の輪の中に入っていく女性と、店を出ようと階段を降りていく渡辺が入れ違いになって。生を祝福される女性と死に向かっていく渡辺、生と死の対比でもあるし、その大合唱が、渡辺に向けて歌っているようにも捉えられるんですよ!
その後、2週間無断欠勤してから久しぶりの出勤。ただ書類にハンコを押すだけだった渡辺は、目に光を灯し、市民の女性たちから相談を受けていた公園作りに情熱を注ぐのです。自分の席に座り、熱心に書類に目を通す様子が映されるのですが、そのシーンでもハッピーバースデーの音楽が使われていて……ようやく始まる渡辺の新たな人生を祝福するような演出に、鳥肌が立ちました!黒澤監督、すごい!
渡辺の変貌ぶりも、もう本当に素晴らしくて。生きる意味を見つけた人間の瞳の輝きを、志村さんが見事に表現しています。必死に頑張っている人って、圧倒されてしまうくらいのパワーがありますよね。そんな渡辺の変化に、私自身も心が突き動かされました。
ウサギのおもちゃを作ることで世界中の赤ん坊と仲良しになった気持ちになる、というとよの言葉も印象に残ります。人とのつながりを感じることで人は生きられるんだなと、生きがいを感じられるんだなと、改めて考えさせられました。
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