永瀬正敏主演作『BOLT』は原発事故がモチーフ…“失なわれた未来”を取り戻すことはできるのか?
#映画 #パンドラ映画館 #原発事故 #永瀬正敏
誰もやりたがらない仕事
1965生まれのヤノベケンジが生み出した原発のセットや永瀬たちが着る防護服は、どこか懐かしさを感じさせる。子どもの頃によく見ていたSFアニメや特撮ドラマに出てきたような、レトロフューチャーなデザインだ。だが、子どもの頃に憧れていた「懐かしい未来」は、もはや遠い過去の幻影であり、3.11によってその幻影さえも無残に崩壊してしまったことを痛感させられる。
子どもの頃、とてもカッコよく見えていたヒーローたちの着ていた特殊スーツが、「BOLT」の中ではひどく脆弱なものに映る。こんなチープなスーツで、高濃度の放射能をどれだけ防ぐことができるのか。また、輝かしい未来社会のシンボルだったはずの原子炉は、理性を失った猛獣のように禍々しく感じられる。慣れ親しんできたものが唐突に襲いかかってくる恐怖心と喪失感がハンパない。
永瀬が演じる名前のない男は、続くエピソード2「LIFE」にも登場する。名前のない男は、避難勧告地区で暮らしていた独居老人宅の遺品整理をする業者(大西信満)に雇われた身となっている。家の中は原発事故の起きた日から時間が止まっていた。原発事故から日数が経ち、放射能の数値は落ち着いてきたものの、時間が止まったままの部屋での遺品整理は、男に事故当日のことを鮮明にフラッシュバックさせる。遺品整理業者の「誰もやりたがらない仕事をしないと食べていけない」という主旨の言葉も、切実なものがある。
最終エピソードとなる「GOOD YEAR」では、永瀬演じる男は廃墟同然の工場で暮らしている。かつての同僚(佐野史郎)に原発を廃炉にする工事に参加したいと電話で頼むも、「規定以上の放射能を浴びているからダメだ」と断られていた。男は人知れず、黙々と何かの機械を工作している。原子力発電に代わる永久機関なのか、それとも時間を巻き戻すことができるタイムマシンなのか。いつ完成するか分からない機械づくりに取り組む男のもとに、クリスマスの夜、謎めいた美女(月船さらら)が現われる。男の亡くなった妻を思わせる風貌だった。
一躍、林海象監督の名前を有名にしたデビュー作『夢みるように眠りたい』は、私立探偵の魚塚(佐野史郎)が未完のままとなっていた映画のラストシーンを探し求める幻想的物語だった。「私立探偵 濱マイク」シリーズでも、依頼人に頼まれて濱マイクはボロボロになりながら何かを探し続けた。また、『夢みるように眠りたい』は浅草、「濱マイク」シリーズは横浜市黄金町界隈、『探偵事務所5』(05)は川崎と、それぞれ雰囲気のある街が舞台となっている。探偵には、くたびれた街がよく似合う。
社会のドブ掃除をするような汚れ仕事を専門とする私立探偵を主人公にし、個性のある街を舞台にしてきた林海象監督が、原発事故をめぐる記憶と事故の起きた街をモチーフにした映画を撮り上げたのは必然のことだったのかもしれない。
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