永瀬正敏主演作『BOLT』は原発事故がモチーフ…“失なわれた未来”を取り戻すことはできるのか?
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林海象監督は日本におけるインディーズ映画の先駆者だ。29歳のときに製作費500万円の自主映画『夢みるように眠りたい』(86)で監督デビューを果たし、永瀬正敏主演作『我が人生最悪の時』(94)から始まる「私立探偵 濱マイク」シリーズも好評を博した。近年は京都芸術大学や東北芸術工科大学で学生たちを指導してきた林監督が、7年ぶりに新作映画『BOLT』を撮り上げた。2011年に起きた福島第一原発事故をモチーフに、社会派ファンタジーとでも称すべきユニークな作品に仕上げている。
林海象監督にとって盟友である永瀬正敏が主演した『BOLT』は、3つのエピソードによって構成されている。最初のエピソードとなる「BOLT」のデザインワークに、思わず目を見張る。大地震によって原子力発電所のボルトがゆるみ、圧力制御タンクの配管から放射能に汚染された冷却水が漏れ出した。発電所に勤める男たち(永瀬正敏、佐野史郎、後藤ひろひと、金山一彦)は防護服に身を包み、ボルトを締めるために命懸けの作業に向かう。
放射能計測機が知らせる数値は、どんどん高くなる。本部からは無線通信(声:佐藤浩市)で「特殊防護服は放射能を防ぐが、完全ではない」「ここで君たちがボルトをとめることができなければ、汚染水は未来へ流れ続ける」という声が届く。足がすくむような状況の中、男たちは2人1組になって原子炉内へと向かう。制限時間は1組1分。わずか1分の間に、どれだけボルトを締めることができるかが勝負となる。だが、防護服を着ている上に恐怖で手が震え、思うようにスパナを回すことができない。まさに地獄の業火に焼かれるような心地だった。
インディーズ映画の限られた予算では、原発事故の状況を再現したセットを作ることは到底不可能だ。それを可能にしたのが、現代美術家のヤノベケンジだった。大阪万博跡地で育ったヤノベケンジは、サバイバルや廃墟からの再生をテーマに創作活動を続けてきた。ヤノベ本人が『鉄腕アトム』の世界を思わせるデザインの放射能感知服を着て、原発事故のあったチェルノブイリなどの廃墟を巡った「アトムスーツプロジェクト」は、アート界の枠を越えて大きな注目を集めた。
林海象監督と同じく京都芸術大学の教授を務めているヤノベケンジの協力を得て、彼の個展が開かれていた高松市美術館内に原発のセットが建てられた。映画制作や撮影の様子そのものをアートとして公開しようという試みだった。永瀬たちが緊張に震えながら炉心へと向かう、薄暗い通路は美術館近くにあった廃工場でロケ撮影されたそうだ。インディーズ映画ならではの創意工夫が施されている。
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