トップページへ
日刊サイゾー|エンタメ・お笑い・ドラマ・社会の最新ニュース
  • facebook
  • x
  • feed
日刊サイゾー トップ > インタビュー  > 東映動画労使対立の真相

アニメーター薄給問題の根源がわかる? 高畑勲、宮崎駿も闘った「東映動画」労使対立の真相と正史

企画者の力と『セーラームーン』『プリキュア』の誕生

 

――東映動画(東映アニメーション)は「この会社といえば、こういう演出だよね」というカラーがない、と作家主義的なアニメファンからは否定的に語られがちです。ところがこの本では、経営的な保険をかける意味で常に異なるタイプのテレビシリーズを複数走らせていることが佐藤順一や細田守などの多様な演出家、スタッフを育む土壌になっていた、という指摘をしていて、非常に面白かったです。しかも、それは現場が親会社への依存/親会社からの搾取体制を脱しようと、自立的なビジネスモデルを模索し続けてきた結果ですよね。アニメを語る際には「お金を出す側」(出資者、経営者)と「現場のアニメ制作者」という軸で語られやすく、しばしば対立的に描かれますが、この本は、東映動画社内の企画・営業、版権スタッフが重要な役割を果たしてきたことを示していると思いました。

木村 プロデュースの実務家が語るアニメビジネス本には企画・版権(マーチャンダイジング[商品化計画]、IP[知的財産])の話は出てきます。でも、歴史研究では企画・版権へ着目する流れは、それほどなかったかなと。私自身は、いかにも「作家が作りました」という作品よりも、東映アニメーションで20~30年働いていて、男の子向けでも女の子向けでも5分番組でもできるという職人の仕事にパワーを感じるんです。一定のアベレージでなんでもできる人が揃っていて、現場スタッフとビジネススキームが合致したときには、『セーラームーン』や『プリキュア』のようにすごいものができる。たとえ合致しなくても、平均点は採れる。そちらのほうが組織としてすごいんじゃないか、と。企画の人は、スポンサーなど外から求められているものと、会社の内に抱えているスタッフの力量とのマッチングを常に試されているわけですね。

――企画者の力が相対的に強い会社ですよね。私も東映アニメーションのプロデューサーで『プリキュア』シリーズや『おしりたんてい』を企画・担当した鷲尾天さんや柳川あかりさんとお話しさせていただく機会がありましたが、本当に「よくぞこういう人を採用してくれました」と人事や経営陣に言いたくなるような方々でした。

木村 いわゆる5社体制(松竹、東宝、大映、東映、新東宝)、ブロックブッキング(大手映画会社が直営館や系列館に年間スケジュール通りに絶え間ない配給を強いること)が成立している時代の映画会社だと、企画・文芸的なポジションの人が物語の方向性とスタッフ編成を決めてクランクインしていったわけですが、そういう企画が花形だった時代の名残が会社にありますよね。常に市場とわたりあってマーケティングも踏まえているのだけれども、決して受け身ではなく企画者の問題意識も入ってくるという、意外に古い映像制作会社のあり方が残っている。

――なるほど。面白いですね。

木村 例えば、先日公開された『魔女見習いをさがして』はまさに“『おジャ魔女どれみ』20周年”という企画先行なんだけど、野心も感じる作品でした。『どれみ』のキャラはほとんど登場せず、当時『どれみ』を観ていた視聴者が成長した後の話になっているという特殊なアニバーサリー映画です。考えてみれば『どれみ』は、日曜朝8時半からの朝日放送枠が、原作ものから東映アニメのオリジナル路線になったきっかけの作品だったわけです。『IPを更新する』のではなく、『もう一回オリジナルをやる』ことこそがアニバーサリーに相応しいあり方だと考えたのではないでしょうか。

――木村さんの目下の関心は?

木村 2方面あって迷っている状態なのですが、著書で50年代以降のアニメーション産業の流れは一定程度示せましたから、それより前の戦前・戦中~占領期のアニメーション業界の構造をさらい直していくという方向がひとつ。もうひとつはアニメに限らず、60~70年代に映画会社の経営方針が変わり、ボウリング場経営や芸能への進出など多角経営に踏み出しては失敗しつつも、現在のビジネスモデルを形成していった過程の研究です。つまり、アニメの隣で映画会社は何をしていたのか、という話ですね。どちらにしても作家・作品論ではなく、映像産業史です。私は「成功したスキームを並べていけば産業史になる」という考えは適切ではないと思っていて、うまくいかなかったことも含めて本当の意味で映像産業はどう持続してきたのかという総体を描いていければ、と考えています。

プロフィール
木村智哉(きむら・ともや)
1980年、千葉県生まれ。早稲田大学演劇博物館演劇映像学連携研究拠点研究助手、日本学術振興会特別研究員、東京国立近代美術館フィルムセンターBDCプロジェクト客員研究員を経て、現在は玉川大学芸術学部ほかで非常勤講師を務める。専門はアニメーション史、映像産業史。

マーケティング的視点と批評的観点からウェブカルチャーや出版産業、子どもの本について取材&調査して解説・分析。単著『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの?』(星海社新書)、『ウェブ小説の衝撃』(筑摩書房)など。「Yahoo!個人」「リアルサウンドブック」「現代ビジネス」「新文化」などに寄稿。単行本の聞き書き構成やコンサル業も。

いいだいちし

最終更新:2023/09/02 21:07
1234
ページ上部へ戻る

配給映画