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自己啓発本として読む『鬼滅の刃』

『鬼滅の刃』炭治郎は「承認欲求時代」のニューヒーローか──アドラー『嫌われる勇気』の共通点

【再掲】『鬼滅の刃』とアドラー『嫌われる勇気』の共通点──炭治郎は「承認欲求時代」のニューヒーローかの画像1
『鬼滅の刃』と『嫌われる勇気』

 単行本の累計発行部数が1億部を突破した「週刊少年ジャンプ」(集英社)の人気連載『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)。同作は全国の書店で売り切れ続出、2019年度の単行本売上ランキングでは『ONE PIECE』(集英社)を抑えて1位、2020年に入ってからはオリコン週間本ランキングで史上初となる1~10位を独占する快挙を達成(4週連続)と、まさに「社会現象」となっている作品だ。

 物語は大正時代を舞台に、主人公・竈門炭治郎(かまどたんじろう)が家族を殺した鬼と戦いながら、鬼と化した妹・禰?豆子(ねずこ)を人間に戻す方法を探すというもの。この一見シンプルな物語が、なぜこれほどにまでウケているのだろうか。

「『鬼滅の刃』には、自己啓発の源流であるアドラー心理学の要素が散りばめられていて、そこが大ヒットの一因となっているのではないでしょうか」

 そう分析するのは、産業医の大室正志氏だ。アドラー心理学といえば、2013年に発行され、改めてその解説をした『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)の大ヒットによって知る人も多いだろう。同書もまた、国内累計発行部数が200万部を超え、自己啓発本としては近年最大のヒット作と言われている。

「そもそも自己啓発とは何かというと、端的に言えば『心ファーストの考え方』、つまり自分の心の持ちようで人生や物事が変わる、というものです。7巻で炭治郎が栗花落カナヲに放つ『頑張れ!! 人は心が原動力だから 心はどこまでも強くなれる!!』というセリフはまさに、自己啓発の考え方そのものです。

 そして、そんな自己啓発の中でも、例えばアドラーと比較されるフロイトが過去のトラウマに物事の原因を求める『原因論』を提唱したのに対し、アドラーはそのトラウマを否定し、今の心持ちを変えれば人生が開かれるという『目的論』を提唱しています。『過去』に責任転嫁をせず、自分の責任で今を生きよう、というのがアドラーです」

 では、そんなアドラー心理学と『鬼滅の刃』の類似性とは、どんな点にあるのだろうか。

「まず第1に、主人公である炭治郎は、家族を鬼に殺されたという、強烈なトラウマを持っているのにもかかわらず、そこに囚われて行動していませんよね。炭治郎が進んでいく目的は、“殺された家族の復讐”ではなく、“鬼にされてしまった禰?豆子を救う”こと。過去ではなく、今を目的として戦っているんです。

 そしてもうひとつ、アドラーは、我々は他者の期待を満たすために生きているのではない、として“承認欲求”を否定しています。この点についても、世界を救おうとした『新世紀エヴァンゲリオン』の碇シンジや、海賊王になろうとしている『ONE PIECE』のルフィとは違って、炭治郎は世の中を救うとかヒーローになりたいなんて一切言いません。ただただ、禰?豆子を救いたいという自身の目的達成に向かって突き進んでいくのです。

 目的がはっきりしているからこそ、シンジとは違って“自分探し”をすることもない。むしろ、『鬼滅の刃』ではトラウマやら承認欲求やらを抱えているのは鬼のほうですよね。その鬼を倒すことによって、それらを否定しているとも取れるかもしれません」

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